シリーズ
−D*end
side:零時
最初は浮気なんてしなかった。
けれど馬鹿な俺はある日、雨に焼き餅を焼いてもらいたくて、別の人間を抱いた。
雨が、泣いたら。もしくは怒ったら。
そしたら満足するはずだった。
そして二度とやらないはずだったのに。
他の男とベットに寝ている俺を見て、雨は、一瞬顔を曇らせてから慌てて部屋を出て行った。
泣くのかもしれない。そしたら、そっと慰めてやろう。
種明かしして、もう二度とやらないと誓おう。
そしたら雨は笑ってくれるんじゃねぇか、と。
心中笑みを浮かべて追いかけて、その手をつかむと聞こえた雨の声。
「ごめ、ごめんなさ、」
一瞬頭が真っ白になった。
なんで、お前が謝るんだ。
「邪魔してごめんなさい・・・!今度からは気をつけるから・・・!!」
なんだ、それは。
必死になって謝る雨に、愕然としたのを覚えている。
俺はなんとかして雨に嫉妬してもらいたくて、それから何度も浮気を繰り返した。
けれど益々、雨の態度は卑屈になるばかりで。
意地になってやり続けた結果がこれだ。
もう雨には、 愛してる という言葉すらも、信じてもらえない。
俺はソファに寝ころび、片手を閉じた瞼の上に載せる。
だめだ、相当参ってる。
そんな俺の様子はわかっているのか、新がため息をついたのが聞こえた。
「そこで"交渉人"に頼っちゃうあたり、お前もヘタレだよなぁ」
「うっせーよ。いいから、早く探せ」
"交渉人"は、この界隈のチームなら知らないヤツはいない存在だ。
異常に人の心を読むのに長けていて、口がうまい。
どこのチームにも所属せず、あっちこっちをフラフラし、そしてたまにある血気盛んなヤロー共のもめ事を、口でなんなく納めてしまう。
場合によっちゃ、チーム同士の縄張り争いすら片付けるその手腕から、ソイツは"交渉人"と呼ばれていた。
俺もソイツとは何度も会っている。
と、いうよりは、俺が雨と付き合っているのもソイツのお陰であり。
「四月からこっち、いきなり姿消したしなぁ」
「クソ、なんで誰も連絡先しらねぇんだよ・・・」
「だってほら、あの子には過保護な双子がいたし。」
交渉人がいつも連れて歩いていたのは、やはりこの界隈で知らないヤツはいない最強の双子で。
俺も何度かヤりあったことがあるが、できることならもう二度とヤりたくねぇ。
どのチームにも属さずあっちこっちのチームをつぶしたり、遊んだりしてたその双子に、"交渉人"は溺愛されていたのだ。
「双子も最近こないしなぁ・・・なんとか、その辺から探ってるけど」
「早くしろ。」
アイツなら。
あの"交渉人"なら、全部うまくやってくれる気がする。
俺たちが付き合い始められた、あの時のように。
早く、早くしないと。
大事なものが手からすり抜けてしまいそうな恐怖感に、俺の体は小さく震えた。
もうあの存在なしでは生きていけないんだ。
失くしたくない。
でもどうすればいいのかが、わからない。
怖くて怖くて仕方がないんだよ。
そういう時はいつもそばにいてくれたはずなのに。
なんでいねぇんだよ、馬鹿が。
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