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番外編
−C

side:東山

無言で目の前のハンバーグを食べながら、気づかれないようにテーブルの向こう側で同じくハンバーグを食べる市ヶ谷をうかがう。
俺と同じく、無言でハンバーグを突っついているが、居心地悪そうな感じはない。
静かな食卓だが、不思議と俺にも緊張感はなかった。
他人との沈黙なんて、息苦しい以外のものじゃなかったのに。
肉親とだって、耐えられなかった。
苛立たしくて、食べ物もまずくなって。

それなのに、なんでだか。
市ヶ谷との沈黙は、苦しく、ない。

考え事をしていて見ている時間が長くなったせいか、市ヶ谷が視線に気づき、不思議そうに首をかしげてこっちを見てきた。
俺はその疑問に答えることなく、眼をそらす。
それでも、市ヶ谷は何も言わない。
興味がないのか。前ならそう思っていた。
けど最近思うのは。

(コイツは、全部わかってやってんのか。)

市ヶ谷の言動を注意深く見ていると、驚くほどこちらの行動の先回りをしてくることに気が付く。
それもごく自然に。不自然ではない程度に。

その自然さが、ひどく、



「どした?ハンバーグ食べたかったんだろ?」

いつのまにか手が止まっていた俺を見て、市ヶ谷が目を瞬いた。
そうだ、今日の夕食に上がっているハンバーグは俺のリクエストで。
別にハンバーグをリクエストしたことに理由はない。
ない……、と思う。
ただ、手造りのハンバーグを食べたのは初めてだ。
俺は、目の前に鎮座するハンバーグをじつ、と見つめた。
大きなハンバーグの横に、俺が自分でちぎったレタスが並んでいる。
そういえば、こんな風に自分の作ったものが並べられるのも、この食事が始まってからのことだ。
教えてもらえれば、自分にもできることなんだということに俺は気付かなかったから。

「口に合わなかった?」
「・・・別に」

普通こんな返答をされれば、相手は怒る。または勝手に悲しむ。
いままでのヤツらはみんなそうだった。
別に俺は怒らせるために言ったんでも、悲しませるために言ったんでもなくとも、周りはそう反応した。
じゃあどんな対応をすればいいのか、言えばいい。
俺は、知っている言葉で返しているだけだ。
そんな、周りと自分との齟齬がひどく面倒で。

けれど市ヶ谷は、そっかーと、一人で頷いて笑顔を浮かべて、食事を再開したたけだ。

俺は、知らず肩から力を抜いた。
再び箸を動かしつつ、ふと思う。


この食事は、いつまで続けられるんだろうか。



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あきゅろす。
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