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番外編
−H

目を覚ました時、部屋の中は夕暮れに色に染まっていた。

僕はぼんやりとした頭のまま、部屋を見回す。
昨日の朝起きたときと同じ風景。

いつの間にか僕は、東山の部屋に帰ってきていた。

「・・・・うん?何故、に?・・・・、あー、」

寝転がったまま首をかしげていると、庭園でのことを思い出す。
ああ、そうか。


僕は、見つかったのか。


見つけた張本人は・・・と、考えを巡らせたとき、自分の手をつかんでいる存在に気がついた。
ゆっくりと目を巡らせると、僕の手を握り締めたまま枕もとで眠り込んでいる人間。
なんとなく予想できたことだったから動揺はしなかったけれど、僕の指先はピクリと振るえて。
それに呼応するように、東山の指も震えて。
ゆっくりとその黒耀がまぶたの下から姿を見せたとき、僕はその瞳に宿る暗い光を見て、びくりと体を震わせた。

「ひがし、」
「昨日の夜、どこにいた」

名前を呼ぼうとすれば、東山は僕の声が聞こえなかったように言葉をかぶせた。
いつもより格段に低い声。
ギリ、と殺気すら感じられる視線に、僕の手が思わず逃げるように東山の手からすり抜けようするも、すぐに東山の手が咎めるように強く握り直ししてきた。
そのあまりの強さに痛みを感じ、僕は顔をしかめ。

「東山、痛」
「どこにいた。」

もがけばもがくほど、東山の手の力は強くなっていく。
東山はいつだって、僕に対しては力を誇示するような態度を見せなかったのに。
だから。
だから、今のこの状況に、僕の脳はパニックを起こしてしまった。

「ちょ、手、」
「なぁ、昨日は誰とメシ食ってんだよ」
「う、わ」

目を白黒させながらただもがくだけの僕に、東山は焦れたように、僕の両手首を掴んで僕の体をベットに縫い付けた。
そのまま上から覆いかぶさるようにして、僕の体の上に乗りかかる。
僕と東山の体格差は結構ある。
僕の体はすっぽりと、東山の体に覆い隠されてしまった。

ただただ驚きに目を見開いて、目の前にある東山の端正な顔を見つめることしかできない僕の顔を、苦しげな表情で睨みつける東山が言葉を重ねる。

「誰と食った?なんで俺と食わなかった?なんで俺とじゃないヤツと食った?俺のものをなんで他人にやった?俺のものだ。俺のものなのに」
「なぁ、なんで触らせんだよ。なんで俺だけのものじゃねぇんだよ。なんで俺だけのものになんねぇんだよ。なんで俺だけを見ないんだよ。」
「おまえはいつも他人ばっかだ。周りばっか見て、よそ見してばっかで。・・・お前がよそ見ばっかしてるから、俺を見てくれたんだってことも知ってる。知ってるけど、イヤだ。そんなのイヤ、だ。なんで他のもんばっか見んだよ。俺だけ見ろよ。俺を見てないお前は、殺したくなるんだ。なぁ、なんで。俺は、俺には、」


「俺には、お前だけなのに。」


血を吐くような、苦しいほどのつぶやきに、僕の心臓が冷えた。
ぐっと、鋭い痛みが心臓から喉元まで走って、その痛みに思わず嘔吐きそうになる。

「イヤ、だ」

東山はうつむいて、その頭を僕の肩口に寄せた。
そこから濡れた感触がして、より一層僕の心臓の傷みが激しくなる。
東山の手に拘束されたままの手が、酷く口惜しい。
外してくれよ。
これじゃぁ、
このままじゃ、


「どこにも行くな。」


お前を抱き締めることもできない。




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あきゅろす。
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