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番外編
−F

見下ろしてくる当麻先輩の顔と、後頭部に感じる感触に、一瞬フリーズした思考が一拍置いて動き出した。

「うわあ!す、すみませ・・・!」
「いい。」

慌てて飛び起きようとすれば、上から当麻先輩の腕に押さえつけられて。
当麻先輩って細身なのに、力強いよな・・・。
もともとの力の差と、体制的な不利で、僕の体は起き上がることができずに、少しだけ浮かせた背中は再びベンチの石の上に舞い戻った。
うぅ、背中の下に薔薇があって、なんかちょっとちくちくするんですけど。

小さく溜息をついて再び上を見上げれば、ガラス玉のような当麻先輩の目がじつと僕を見下ろしていて。
その真っすぐな視線が、妙にどきまぎしてしまう。

「な、なんですか、せんぱ、」
「あ!ええなぁ、英。その体勢、役得やなぁ」
「手当、する」

ふわり、と当麻先輩の白魚のような両手が、僕の両頬を包む。
しかし、遊佐先輩のバラによってついた顔の傷にその手がふれて、ピリリ、と痛みが走り。
そね刺激にうっかり僕が眉をしかめてしまうと、途端に当麻先輩の体が固まった。

ガラス玉の瞳だけが痛いぐらい僕を見つめてくるのが、今度は綺麗というよりは怖い。
黙り込んだまま、穴が開くんではないかというくらいの熱視線だけを向けられて、超怖いんですけど。


離すのか、離さないのかだけでも、はっきりしてもらえるとありがたいんですが・・・。


見つめあい離せなくなった視線のまま、内心当麻先輩の様子に冷や汗を流していると、東屋の天井と当麻先輩の顔しか見えていなかった僕の視界に、遊佐先輩の顔が覗き込んできて。

「どしたん?英。」
「・・・・触ると、痛い」
「はぁ?・・・あぁ!傷か!ええやんええやん、その程度ー」


全然、よくねえっす。


遊佐先輩の台詞に思わず眉間にしわを寄せると、遊佐先輩の笑みが深くなって。
次の瞬間、遊佐先輩の顔が少しだけ近くなり。

「いったあ!!」
「・・・・・・っ、」
「ほれほれ!」

やわらかく僕の頬に触れていた当麻先輩の手が、ぎゅー、と強く頬に押し付けられて、傷がひりひりと痛む。
どうやら遊佐先輩が、当麻先輩の手の上から手を押し付けているようで、当麻先輩も珍しく驚いたように目を見開いている。

「遊佐、」
「へいへーい」

咎めるような当麻先輩の声が聞こえて、両頬に受けていた圧迫がなくなる。
そのまま、両手も離れていき。
ひりひりする顔が気になりつつも、とりあえず離れた手にほっと息をつくと、今度は額に温かい感触が。

「・・・当麻先輩?」
「・・・痛く、ない?」

額に傷は付いてなかったようで、確かに痛みはない。
ないけど。

「・・・ほんとにするんですか」
「する」

なんだか少しだけ、当麻先輩のアイスブルーの瞳が輝いているように思えるのは、僕の気のせいか。
ここまで珍しくキラキラと輝いた瞳を見せられれば、いやだ、なんて言えないわけで。
僕はあきらめ半分、役得半分、な気持で、ゆっくりと体から力を抜き、目をつむった。

額に感じる温かさが気持ちいい。
それに日差しが柔らかくて、風が涼しくて。
薔薇の香りがかすかに香るこの場所は、酷く気持ちが良い。


こんな状況がそろっていて、寝ない人はいないと思うんだ。


意識が眠りの世界に足を踏み入れたときに聞こえたかすかな笑い声は、誰のものだったのだろうか。



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