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番外編
−C

「・・・うーん。いまいち自分でもわかりかねてる、かな」
「はは、なんかちょっと安心した。」
「え?」

こちとら、今まで体験したことのないような葛藤を前に悩んでいるというのに、何故笑う一実さんよ。

そんな思いをこめて軽く睨みつけると、一実は軽く手を振って瞼を伏せた。

「いや・・・島はいつも、飄々としてたから。なんか、年頃の男の子っぽいところが見れて安心した。」
「・・・そうでもないんだけど、なぁ。」

いつでも内心は大騒ぎ。市ヶ谷です。
ちょっぴり強がりなんです。だって男の子だm(以下略)

「まぁ見れた機会が、よりにもよって男同士の痴情のもつれっていうのはどうかと思うけどさ。」
「それはいうな。いいじゃない。男が好きなんじゃないよ、好きになった人がたまたま男だったんだよ!」
「はいはい。」

ばん!とわざとらしく机を叩きながら叫ぶと、一実はお座なりな返事を残し、その背中はキッチンへと消えていった。
その背中を見ながら、コーヒーをもう一度覗きこむ。
ふわふわと揺れていた湯気はほとんどなくなり、外から触った感じの温度もよさそうだ。
恐る恐るカップに口をつけて、用心深くコーヒーを舌に触れさす。

「美味い。」
「そりゃよかった。熱くなかったか?」
「もー平気。」
「猫舌は大変だな。」

コーヒーをお替りしてきたのか、戻ってきた一実の手には湯気が立ち上るカップが。
それを見つめて、僕は苦笑を浮かべた。

「ラーメンは伸びきったのしか食べれないしねぇ」
「鍋なんかも、すぐ食べれないしな。そういや、飯食った?」
「いやまだ。よかったら僕作るよ。宿泊費代わりにでも。」
「そうか?じゃあ頼もうかな・・・。うん?じゃあ東山の分の夕飯はどうしたんだ?」
「・・・・・・・・。」

ほんと一実は鋭い。
僕は目をそらしながら、むっつりと口をつぐむ。
そんな僕の様子を見て、一実は再び苦笑を浮かべて。

「作ってこなかったんだ?」
「・・・甘やかし、イクナイ」

目をそらしたままそれだけ言うと、一実は肩をすくめただけに反応を留めた。
そして、体を反転させ、再びキッチンへ戻っていく。

「まぁ、いいけどさ。うーん、冷蔵庫、なにあったかな・・・」
「あ、僕も見る。」

手当のお礼と称した夕飯の御馳走から今日まで、ほとんど東山と一緒に過ごして来た夕食。
誰かと一緒だったり、どっちかが外出しているときは、もちろん食べなかったし、何度か一緒じゃなかったことだってあるけど。


こんな状況で、一緒に食べないのは、初めてかもしれない。


心の隅に凝る妙なモヤモヤから目をそらすように、冷蔵庫に向かう一実の背を僕は追いかけた。



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あきゅろす。
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