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番外編
−D*end

side:東山


この夕飯は、手当てのお礼だと市ヶ谷は言う。
ならば、あの薄くなった痣が消えれば、この食事も終わってしまうに違いない。
二人分の食事を作ることは面倒なことだろうし、俺と一緒に食事をとることを市ヶ谷がどう思っているか知らないが、俺だったら自分のペースを乱されるのは、不快だ。
だから、これはもうすぐ終わる。


それが、酷く惜しく思う。


毎日色が薄まっていく市ヶ谷の腹の痣を見ながら、長引かせる方法はないかと毎日考えた。
なんでこんなにもこのことに執着するのか。
考えてもわからない。答えが出ない。
だから、俺は途中で考えることを放棄した。
ただ、この時間をなくしたくない。
それだけは、はっきりしているから。
でも、やっぱり俺はそれを止める方法なんてわからなくて。
けれど、ひとつ思いついたのは。


あぁ、もう一度、作ればいいの、か?


「御馳走様でした」

ふと聞こえた市ヶ谷の声に、はっと顔をあげる。
市ヶ谷は、空っぽになった器を片付け始めていた。
気づけば俺の器も空っぽだ。

毎回毎回、夕食の時間でこのときが一番緊張する。
喉に何かが絡んだように急にのどの奥が重くなり、ひどく頭が混乱する。

わかるのに。
教えてもらったことだから、わかるのに。

なぜ、この一言がこんなにも重いのか。
言いたくないなら言わなくてもいいはずなのに、俺はいつもこの言葉を言うことに必死になるのだ。
俺は、喉の奥から絞り出すように声を出した。

「ご・・・ちそう、さま」
「はい、お粗末さまでした。」

にっこりとした笑顔を向けられて、今度はいたたまれない気持ちになる。
いたたまれない気持はさっきまでと同じなのに、まったく違う。
さっきまでは重苦しい焦りだったのに、今度は手や体がムズムズとして、今すぐここから立ち去りたくなる。
市ヶ谷に顔をのぞきこまれるのが嫌で、思わず手の平で顔を隠したくなった。
でも。
でも、いやじゃない。
ああ、もう、なんなんだ。
わかることは。


俺は、もうこれをなくせない。




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