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3-29

side:春

「夏、ちょっと」
「ん?」

ソファで寝てしまった島の顔を覗き込んでいる夏に、俺は考え込みながら声をかけた。
島の頭をなでる手はそのままに、夏が顔をあげる。
俺は、ソファのそばに座り込んでいる夏の向かいに同じように座り、島の顔を覗き込んだ。

小さく寝息を立てながら眠り込む島の顔は、小さなころと変わらなくて。

その柔らかな頬を、そっと撫ぜる。

「なにかあったのか?」
「島のこれ。」

島を起こさないように、ソファから投げ出されている包帯が巻かれた島の手を取った。
それを視界に映すと、夏の目が暗く沈む。
しかし俺は、自分が巻きなおした包帯を緩く撫でて、頭を振った。

「違う。これは夏のせいじゃない」
「・・・んだと」
「たぶんあのあと・・・別の誰かに、もっと強く握られたんだと」

不格好に張られた湿布を剥がした後に見えた、赤く腫れ上がった島の手首を思い出す。
そこは、内出血でもしているように赤黒くはれ上がっていて、それを見て顔をしかめた俺の顔を見て、島はバツが悪いようにちぢこもった。

不格好にまかれたそれが。
他人によって手当てされたそれがひどく不愉快で、早く自分の手で巻きなおしたかった。

はやる気持ちを抑えて丁寧に巻きとった包帯の下には、くっきりと残る五本の指の跡があって。
生徒会室でのやり取り時の夏の気持ちが、その跡からわかるような気がして内心苦笑を浮かべるも、その一方不思議にも思った。


俺たちが、島を傷つけるはずがないのに。


夏が力を見誤ったとは思えない。
疑問を抱えつつ、島に気づかれないようにその後を検分して気づく。

「島の手首の痣は、俺たちの手の形じゃなかった。」

自分たちより少し小さい手。
その手が、島の手首に跡をつけた。
それに気づいた瞬間胸に湧き上がった怒りは、とっさに無理やり笑顔の下に押しこめたけれど。

島は、嘘をついていた。
手首の怪我は夏のせいじゃないことを、島は知ってるはずだ。
怪我の話になると、歯切れが悪かったのはそのせいか。
嘘をつかれた。そのことはあまり気にならない。
なぜなら島が、俺たちを害する嘘をつくはずがないからだ。
そうすると。

「俺たちに言えない誰かにやられたか。」
「言いたくない、ってとこかな」
「・・・・・。」

夏が暗い瞳をして、宙を見つめた。
島が生徒会室から出て行ったあとに、関が入ってきた。
その時、いつも一緒にいる当麻は居らず、なぜか島と一緒に保健室にいたという。
すると、関と島がすれ違った可能性は高い。

そう、島を傷つけたのは多分。



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