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3-11

side:春一


「相当ご執心でいらっしゃる。」

にやり、と笑みを浮かべた有栖川は、島が部屋を出ていった瞬間、鋭く目つきを変えた夏を見た。
人を殺せるような強い視線で、夏は有栖川を見ていて。

「まさか、ちょっと話しただけでそんなに怒るとはねぇ。」

小さく笑いながら、定位置である、部屋の中心に設置してある会長席に軽い音をたてて有栖川は座った。
井村もいつものように、有栖川の背後に静かに控える。
その顔は有栖川のように笑顔ではないが、不思議そうにおれたちをかわるがわる見ていて、やはりおれたちの態度を不審に思っているのがわかった。

言葉一つで熱くなりそうな頭を、細く長く息を吐き出すことで冷やす。

熱くなるな。
熱くなってはだめだ。

それでも先ほどまでのやりとりを思い出すと、手が震えて。

触れるな。
あれは、


あれは、おれたちのものだ。


「島に関わるな。・・・テメェでも容赦しねぇよ?」

夏が、小さく喉を鳴らしながら、机に勢いよく足を乗せた。
尊大な態度だが、井村が小さく眉をしかめただけで、有栖川に気にした様子はない。
大げさに肩をすくめて、俺のほうに顔を向けた。

「春、どういうことだい?」
「・・・何が?」
「だから、君らのその態度だよ。・・・そんなに大事かい?あの子が。」
「…あぁ、大事だよ。何よりも」

だから、手を出すのはやめておいたほうがいい。
そう言外に含める。

あの子に何かしたら。
おれたちは、何をするかわからないよ?

いつも通りの笑みを浮かべた俺を見た会長は、何かを悟ったのか、溜息をついて首を振った。

「わからないなぁ。確かにちょっと面白い子だったけど・・・それだけじゃないか。よくいる普通の子に見えたけど?」

夏は黙ったままだ。
もちろん、俺も。

黙ったままのおれたちを見て、有栖川はため息をついて机に頬杖をついた。
井村は、訝しげに眉間にしわをよせ夏を見る。

「何がお前たちをそうさせる?・・・正直、初めて見たぞ。お前たちのそんな様子を」
「ハハハ!」

夏がはじけるように笑いだした。

「初めて?そりゃそうだ!・・・俺達が想うのは、アイツだけだからな。」

そう、島以外はどうでもいい。


島が、俺たちのすべて。


大事に大事にしてきた、俺たちの宝物。
誰にも教えたくない、教えない。
けど、閉じ込めたりなんかできない。
だってそれではあの子は泣いてしまうから。
あの子が泣けば、俺たちの心はキリキリと痛むから。
大事に、優しく。真綿のように愛しんでいきたいのに、あの子の性格はそれを許してくれない。
どこまでも自由な。
それが少し憎らしくて、けれどそんなところも愛おしくて。
誰にも教えずに、この世界からあの子を隔絶させて、俺たちとだけ触れあっていればいいのに。
けれどそんなこと、どうしたってできないから。
だから、せめて。

「アイツの価値を、教えてなんかやんねぇよ。」


あの子のことは、俺達だけが知っていればいいんだ。
そうだろ?


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