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3-10

僕の手首をつかむ、夏兄の手の力が強い。
これは痣になりそうだなぁ。


何が夏兄の機嫌を悪くしたのかわからないが、これは素直に部屋に帰ったほうがよさそうだ。
夏兄が機嫌悪くなってんだったら、春兄も機嫌悪くなってるんだろうし。

僕は、手首をつかまれたまま、会長と副会長に顔を向けた。

「と、まぁ、お怒りなんで、僕はそろそろ。」
「なに?従順なんだね?」
「お兄ちゃん子なんで」

なんで、この人はこうひっかけてこようとするかなぁ。
わざと癇に障る言い方をする会長に、僕は苦笑いを浮かべた。
たぶんこの人、愉快犯タイプだ。
こういうのには、一回引っかかったら負けっていう。

「市ヶ谷すまん、」
「副会長、気にしないでください。僕、慣れてますんで」

済まなそうに謝ってくる副会長に、僕は軽く手を振った。
こういう礼儀正しい人は、逆に新鮮だよなぁ。
なんでか僕の周りには、一癖も二癖もある人間が集まる。
楽しいけど、疲れるっちゃー疲れるんだよねぇ、もー。

「島、」
「わかったわかった、行くって」

春兄のとがめる声が聞こえて、僕は夏兄の手をたたいた。

「夏兄、僕行くよ」
「・・・、」

一瞬、夏兄は顔をゆがめて、ゆっくりと僕の腕を放した。
けれど、その手は完全に離されることはなく、すがるように僕の手に少しだけ触れていて。
僕はその腕を見て大きく溜息をついた。
そして、少し俯き気味だった夏兄の頬を掴み。

そしてその頬を、両手で力いっぱい横に引っ張った。

そしてそのまま顔を近づける。
ぎょっとした夏兄の顔を見て、僕は笑った。

「じゃ、またあとで!」
「・・・あぁ、」

ようやく夏兄の笑顔が見えて、僕は体を離し。
そしてそのままドアに向かいざま、春兄の近くを通り過ぎる時に服の裾をつかんだ。
それに気付いて、僕が話しやすいように頭を下げてくれた春兄の耳元に顔を近づけて、小さく耳打ち。

「夕飯は、焼きそばがいいんだけど」
「・・・もっと手の込んだものでもいいのに。」
「塩焼きそばがいいんだ。塩。ソースじゃなくて塩」
「わかったわかった。夕飯までには戻るよ」

そう言って笑うと、春兄から感じていたピリピリとした緊張感がゆるりと溶けた。
けれど背後から聞こえた、息をのんだ音と、ヒューという口笛に、再びピリ、と空気が固まって。
あぁ、もう!会長勘弁してくれ!!

「春兄!」
「っ、あぁ、ごめんごめん」

声をかければ笑顔が帰ってきたけれど、ほんと大丈夫かね。
心の中でため息をつきつつ、僕はドアを開いた。

「じゃあ、失礼します」
「またね、島」

閉まる扉の隙間から、艶やかに笑って手を振る会長と、またもや大きくため息をついている副会長の姿が見えた。

苦労してんなぁ、井村副会長。
お守みたいなもんなのかな、あれって。


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あきゅろす。
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