3-6
「できるだろ?」
きょとんとした顔でなんでもないように言う夏兄に、僕はむっつりと黙ってみせる。
そりゃ、やろうと思えば、できるけど。
僕、失敗したときの責任とれないぞ。
黙ったままの僕の頭に、夏兄の手が乗っかって、僕のあたまをゆるく撫でる。
そしてそのままその手は僕の腰までおりてきて、ぐい、と強く腰をひかれた。
「責任はもちろん俺がとるさ。お前は考えすぎだ」
引かれるままに、夏兄の膝のうえに乗っかると、夏兄が僕の腹のあたりに顔を埋めてきて。
くっくっく・・・と低い笑声が腹の辺りで聞こえて、こそばゆい。
「いいな。お前、変わんねぇなぁ」
「成長期にそのセリフはひどいんでないですかね」
「うん?体は育ってんだろ。会わない間に、結構体も出来てきたじゃねぇか」
「そうだね。身長も伸びた」
後ろから春兄も、背中に伸し掛かるようにして抱きしめてくる。
二人が高校生になってからは、ここの寮にはいってしまったから、滅多に会うことができなかった。
たまに夜ぬけだしてきて、僕を誘って三人で夜の街をうろつくってことはしたけど。
そこで色んな人と遊んだり、友達になったり、やっぱり喧嘩の仲裁をしたり。
みんな今ごろなにしてるんかなぁ。受験期から、全然行かなくなっちゃったしなー。
今思えば、中学生のやることじゃなかったな・・・
いや、僕だって兄ちゃん達がいなかったら、夜、外を出歩くなんてしなかったけどね!?
でも楽しかったんだよなぁ。兄ちゃんに会えるし、色んな人と友達になれたし。
まぁそれだって、毎週ってわけにはいかなかった。
僕だって寂しかったさ。
また一緒にいれて嬉しい。
嬉しいけど。
「重い!重い!!てか二人とも暑い!!」
「夏はよくて、俺はだめなのかい?」
「春邪魔だってよ。」
「夏が離せばいいんだよ。」
「ああもう二人共うっとおしい!!」
ガチャ。
夏兄の膝の上で、二人の腕を振り払ったところで、僕の叫び声と同時に、背後でドアが開く音がした。
「それが、噂の弟くん?」
父さん。
目の前に、日本人形がいます。
闇のような黒髪は、風に揺れてシャラシャラと音をたてて。
紅でも挿しているんじゃないかというくらい朱い唇は、うっすらと笑みを浮かべている。
綺麗にカールがかかった睫毛の向こうから、真っ黒な瞳がこっちを真っ直ぐ見ていて。
その瞳に自分が映ることが、なんだか無性に恥ずかしくなって、僕は顔を俯かせた。
うぅ…耳が熱い。
絶対、顔赤くなってる。
てか、僕よ。残念なお知らせが。
今の人、鷺ノ宮の制服着てましたよ。
つまりOTOKO。
なんと、残念な。
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