2−13
side:東山
市ヶ谷島は解らない。
高等部に上がって、部屋割が変わった。
中等部のときの同室者は、いやに俺にからんでくる頭も尻も軽そうなヤツで、初日にベッドへもぐりこんできた時点で直ぐさま部屋から叩き出した。
学内を歩いていると、舐めるようなうざったい視線が絡んでくる。
だから自室だけは、誰の干渉も受けたくなかった。
なのに、毎日毎日、誰かがドアをノックする。
絡み付く視線に吐き気がして学食にも行かない俺に、頼んでもいないのに飯を運んで来るヤツ。
授業にもあまりでないからか、ノートを押し付けてくるヤツ。
この程度のレベルの授業なんて聞く価値ないから、出てないだけなのに。
毎日、毎日。
イライラした。
ただセックスのあの快感は嫌いじゃなかったから、それを求めてくるヤツラだけは部屋へ招き入れて。
そしたら、そういうやつらばっかりが俺の部屋を訪ねてくるようになった。
毎日毎日。
そんなヤツらばっかりだ。
そうやって折角、一人部屋で落ち着いていたのに、また二人部屋に戻った。
同室になったのは、どうしてか特待の人間で。
鷺ノ宮の一般生徒しか見たことのない俺にとって、正直新鮮な存在だった。
名前、平凡な容貌、特待入学だということ、間の伸びた挨拶。
俺は同室者に対して、そのくらいの情報しか知らない。
なぜなら俺が、干渉するな、と告げたから。
もう、あんなウザい思いをするのはこりごりだった。
もしそれでも干渉してくるようだったら、また3年前のように叩きだしてやろうと思っていた。
寧ろ、そのつもりでいた。
今まで干渉するなと言って、干渉してこなかった人間なんていなかったから。
けれど。
軽い了承の返事と共に、市ヶ谷の目から俺の存在は消えて。
その目を見て俺はデジャヴを覚えた。
俺の両親はお互い仕事人間で、契約結婚のような背景を持つ夫婦だ。
愛は無いのだと思う。
少なくとも、両親が仕事以外の話をしている記憶が俺には無い。
物ごころついた時には家に一人きりで、食事はデリバリーを取っていたのを覚えている。
そしてそのまま小学部から、厄介払いのように鷺ノ宮に入れられたので、俺に家族の記憶というものがほとんどない。
両親は、俺への関心が全くなかった。
しかし鷺ノ宮に入ると、周囲からは全く正反対の反応をされたものだから、俺はひどく混乱した。
そのうち、親の会社のデカさと俺の容姿の特殊さに気づき、一応は納得したものの、未だにその混乱は解決されない苛立ちとなって俺の中に存在している。
親とはずいぶん会っていない。
市ヶ谷の視線は、両親を俺に思い出させた。
あの時感じていた、空虚さと共に。
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