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side:アザレ

教室に帰る道すがら、笑って手を振って別れたクラスメートの脳天気な顔が、ふと脳裏に浮かんだ。


市ヶ谷島は、変なヤツだ。

そうとしか言えない。
でも、何処が変だと聞かれると、答えるのがものすごく難しい。
ぱっと見、その辺のヤツラと変わらない。

でもヘン。


僕のパパは俳優で、ママは世界を股に掛けるスーパーモデルだ。
二人とも、高校生の子供がいるとは思えないほど、若々しく美しいと持て囃されている。
そんな両親の血を見事に受け継いでいると、僕はしっかり自覚している。

小学部のころからいるこの鷺ノ宮学園では、容姿の美しさが一種のステータスになる。
男ばっかりの閉鎖された空間で、僕のような容姿の人間は、持て囃されるのだ。

そう、パパやママと同じように。

ずっと、ずっと、それが当たり前だった。
僕がチヤホヤされるのは当たり前。
なんでも許されるのも当たり前。

だって、僕は可愛いんだから。

僕は存在するだけでいいんだと、みんなが口々に言った。
だからいつだって、僕は周りの視線を一身に受けてきた。
どんな視線だって受けた。

褒めたたえるその口と同じ持主の目が、嫉妬を湛える。
優しく甘い言葉をささやくその口と同じ持主の目が、欲望を湛える。

市ヶ谷島も、そんな視線を向けてきた一人だった。
僕を見つめるまなざし。
周りのみんなと同じまなざし。

の、はずなのに。


なんで、その瞳は欲を映さないのだろう。


クラスメートとなった島は、ごくごく普通の特待生だ。
賤しい一般庶民の特待生。
普通の顔、取り立てて特徴のない性格、目立つことのない行動。
特待教科である国語能力以外、何一つ秀でたものがない。
絶対今までの僕なら、関係なんてもたなかったであろう存在だった。
その島からの視線だって、見られることに慣れている僕からすれば、気にするものでもなかったのに。
けれど、そのどうしようもなく普通な島に気を引かれたのは。

真っ直ぐな、その瞳が。

ただ僕を見るその視線が、あまりにも新鮮で。
その背後に何も見ていない。欲もない。嫉妬もない。羨望もない。
ただ、にこにこと僕を見ていた。

それに気づいた時、何故か僕の胸のあたりがポカポカと暖かくなって。
なんだろうか、この気持ちは。
それと、同時に感じたさびしい気持ち。
島は、僕を見ているだけだった。

それって、僕に何も求めていないってこと?

島の中ですべて完結してしまっているそれは、当事者である僕にも、絶対に干渉できないところで。

悔しい。…悔しい!
僕を見てるくせに、なんで僕を見てないの!
僕を、見ろ!!

そう疑思った瞬間、僕は叫んでいた。

「市ヶ谷島!お前は今日から僕の下僕だ!」

丸く目を見開いたその目は確かに僕を見ていて、僕の心は躍った。


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