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4-29

***


ザリザリと地面を踏む足音二つと、バイクのタイヤが転がる音がゆっくりと重なる。
何気なく真っ暗な空を見上げれば、ポツリと輝く真ん丸なお月さまが見えて。

「今日は満月かぁ」

夏の生ぬるい空気が、一実の実家へと向かう僕と一実の間をふわりと揺れた。




「・・・なにも・・・聞かないん、だな」


そんな僕と一実の間の気だるい空気を縫うように、不意に一実の声がぽかりと宙に浮く。
僕の少し後ろをバイクを押しながら歩いていた一実を振り返れば、一実はただひたすら地面を見つめていて。
別に地面に面白いものがあるわけじゃないだろうに。
けれど、一実は二人で帰ることになったその時から、この状態のままだ。


おうちに泊まらせて!とハートマーク付きでお願いした僕に、一実はひどく戸惑った。
なんでかは、わかるようなわからないような。
そんな動揺している一実を余所に、早苗さんは「いいんじゃないの?」と笑い、黒さんもどこか楽しげに笑って一実を見ていた。
そんな周りの雰囲気に推されてか、一実は眼を泳がせたまま、それでも小さく「あ、あぁ」とうなづいて。


(そして今に至る、というわけなんだが。)

僕はため息をついて、一実を真正面から見た。

「何もって?」
「何ってそりゃ・・・色々・・・」
「色々って?」
「・・・・・・・・・・・、」

質問を質問で返してやれば、少しの沈黙の後にため息が返ってきた。
失礼じゃないのかそれは。
むっとした気持ちのまま腕を組んで一実を睨みつけてやっても、その顔はいまだ上がらず。
そんな一実の様子に僕は肩をすくめて、再び前を向いた。

「バイクのこと?銀のこと?黒さんのこと?喧嘩のこと?チームのこと?・・・それとも、僕の情報を黒さんに教えたこと?」
「っ、」

思いつく限りでまくしたてるように言葉をたたきつければ、息をのむ音が背後から聞こえた。
次いでジャリっと足が石を蹴る音がして、背後の足音がとまって。
再び振り返れば、苦しげに顔を歪ませた一実がまっすぐに僕を見ていた。
苦しげな表情のくせに、視線がやたらと正直にまっすぐで、そんなところが全く一実らしい。
僕はそんなよく見知った一実の表情を見つけて、思わず笑ってしまう。



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