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笹 秋月(ササ アキヅキ)、とは。
最近人気急上昇中の、ミステリ作家である。
自分と同名のワトソン役を主人公とし、その主人公の幼馴染である探偵が様々な事件を解決していくシリーズが非常に人気が高い。
ストーリー性はもちろん、そのトリックの精密さ、心理描写の深さ、そしてホームズ役である主人公の幼馴染の深い人物像。
どれをとっても一級品で、僕は初めて彼の作品を読んだ際には、読み終わったときには手の震えが止まらなかったほどだ。
残酷で、切ない。暖かくて、冷酷。
奔流のように流れ込んでくる感情の波と、怒涛の展開は、読者に息つく暇も与えてくれない。
まさに、現代の推理小説の文壇を飾る一人といえるだろう。
作者である笹のすべては謎に包まれており、男であるかも女であるかも公表されていない。
ただ僕は文体からいって、おそらく男性だろうと考えており、これにはちょっとした自信がある。
黒さんも、同意してくれたしね。
そう。
黒さんも、笹の文章を読んでいる。
と、いうか超読み込んでいる。
実は黒さん、無類のミステリマニアなんだな。
そもそも僕と黒さんが仲良くなったきっかけは、そこ。
ダークな雰囲気とバックグラウンドを持つ黒さんだけれど、その実、何よりも読書を愛していて。
でも、こういう世界にいる人って、そんなに本を読まないんだよね。
(黒さんが、読みすぎるっていうのもあるか。そうそうついていけないレベルなんだよねぇ。)
僕は内心苦笑いをしながら、今だ驚いてこちらを見つめたままの黒さんにアピールするように、顔の横で紙の束を振った。
多少本を読む人がいても、黒さんの話にはついていけない。
好きなものは、誰かと分かち合った方が楽しいにきまってるわけで。
その楽しさを黒さんが始めて分かち合えたのが、僕。
僕も相当な読書魔ですので。えっへん。
そんな僕らの間で、もっとも最近ブームなのが笹秋月なわけだ。
そしてそんな笹には、一つのうわさがある。
笹が学生時代に、その時に在籍していたミステリ研究会で出した部紙に寄稿したという処女作がある、と。
笹自身が自分の原点だと語るそれは、しかし数十部しか印刷されず、そしてその行方は笹さえもわからず。
もう、笹好きには垂涎もののソレ。
誰もが求める、伝説の小説。
そう。
僕、ソレ。見つけちゃいました。
もう、ほんと手に入れたときは、死んでもいい、って思ったね。いや、死なないけど。
実は鷺ノ宮の司書さんが、その部紙を持っていたんだよ!なんという偶然!
ほんともう、図書館に通いつめて司書さんと仲良くなっておいてよかったー!
原本は当たり前だけど渡せないってことで、全文コピーを取らせていただきました。
そんでもって、これはぜひとも黒さんに見せなければ!と、持ってきたのが本日の、コレ。
「ねぇ、黒さん」
僕はそのコピーの束を両手で顔の横にあげて見せて、にっこり笑って首をかしげて見せた。
「これ、ここから下ろしてもらわないと、見せられないなぁ。困ったなぁ。・・・ね?」
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