4-19
頭を抱えて溜息をつく僕と、口の端だけ笑みの形にしてこちらを見上げている黒さん。
交互に視線を泳がせながら、銀はうぅ、と小さく唸った。
銀からしてみれば、黒さんはいろんな部分でお世話になっている人で(銀の生活費やらなんやら、生活基盤はおそらく黒さんによって成り立っている)、僕は僕で、銀は僕に恩義を感じているらしく、ほとんどの場合、銀は僕の嫌がることはしない。
どちらを優先させるか。
野生の獣のように、なんでも素直に自分の気持ちにしたがって行動している銀だったが、今回のこれはなかなか難しい問題になってしまったようで。
だんだんと唸り声が小さくなり、灰色の瞳に涙まで浮かんできて。
余りにもその様子が、小さい子をいじめているように痛々しくって。
あーもー。ギブだよ、ギブ。
「もー黒さん、あんまり銀をいじめてやんないでよ」
いじめたくなる気持ちは分からなくないけどね。
そう言いながら、まだ自分の膝の上に乗せられたままだった銀の頭を抱える様にして抱き締める。
ゆっくりと慰めるようにその銀糸を撫でてやると、もっと撫でて、とでもいう様に、勢いよく銀の頭がすり寄ってきて。
よーしよーし、とムツゴロウ気分で、頭をぐしゃぐしゃと少し乱暴にかき回してやれば、ニッコリと輝くような笑顔が僕に向けられた。
よしよし。機嫌は直ったかな?
その満面の笑みに笑い返し、そっとその頭を膝の上から退かそうとすると、しかし嫌がるように膝に頭を埋める様にしてまた懐いてしまう。
溜息をついてその頭を一度ペシリ、と叩いて、勢いよく立ちあがった。
飴と鞭はほどほどに。
ごろりと膝の上から転がり落ちた銀は尻目に、ゆっくりとコンテナの端に寄り、黒さんを見下ろす。
いつの間にか普段どおりの無表情に戻った黒さんに、僕はずっとここに来る前から背中に差し込んでいたあるものをばばっと取り出し、目の前にかかげて見せた。
「じゃーん!黒さんこれ、なんだかわかります!?」
これぞ、本日の最終兵器。
そもそもこれを使って、黒さんの機嫌を直そうとしていたわけですが!
少しかさばる紙の束。ぶかぶかのジーパン穿いてて良かったぜ。
僕が何を持っているのか確認するように目を細めてこちらを見ている黒さんに、僕はそれをゆっくりと顔の傍まで持っていき、にっこりと笑ってみせた。
「なんとこれ、『笹 秋月』の、処女作のコピー。」
僕のその言葉を聞いて。
黒さんの瞳が大きく見開かれ、僕はその黒さんの様子ににんまりと笑みを深めた。
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