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2-5

一実の見事な例えに、思わず頷く。

しかしながらアザレの我儘は、周りから見れば酷いのかもしれないけど、僕にとっては全然許容範囲内のものばかりなのだ。
荷物持てだの、アレ持ってこいだの、肩をもめだの。
別にまあいっかー、で済むものばかりなもんで、ついついアザレ可愛さにやってしまう。
ああー自分のかわいい物好きの性が悲しいぜー。
僕に下されるアザレの命令が負担でもなんでもないので、この下僕扱いは僕にとって辛くもなんともないのである。

しかしどうやら一実には、文句があるらしい。

アザレが僕に命令するたびに、一実の眉間にしわが寄る。
アザレとのにらみ合いなんて、しょっちゅうだ。

それが心苦しい一方で、なんだかすごく嬉しくなってしまう気持ちをもごまかしきれないわけで。

だって本当に嫌ならば、一実は僕から離れてしまうのが一番一実の心の安寧のためにはいいはずなんだ。
なのに、一実は僕から離れないでそばに居てくれる。

僕を思って、怒ってまでくれる人がいるっていうのは、幸せだ。
心配してくれる、怒ってくれる、拗ねてくれる、呆れてくれる。


心を傾けてくれる人がいることは、幸せだ。


「僕は、それでも一実が隣にいてくれるのが、すごくうれしいけどね」


前を歩くアザレの背を見ながら、何気なく思ったことを言葉にしてみる。
隣で息をのむ声がして一実を振り返ってみると、なんだかどこかで見たような複雑な表情をしていた。
読みづらい表情に、一実を見詰めたまま首をかしげると、バチン、と音を立てて、一実の手のひらが僕の顔を覆った。

「むぐ、ちょ、かず、」
「あーもういい、ちょっと黙ろう」

黙るのはいいけど、完全に目が覆われているので、歩けないんですけど。
二人で歩みを止めていると、前の方から可愛い罵声が飛んできた。

「なにじゃれてんのさ!さっさと歩けバカ!遅刻したら、その顔殴ってやるから!」
「暴力はんたーい。ほら一実殿、姫様がお怒りである。我らの命が危ないぜよ」
「いろんな方便混ざり過ぎじゃないか?」

手が外されて見えたのは、いつもどおりの一実の穏やかな笑顔。
二人で笑いあって、むっつりと頬を膨らませたアザレの元に走った。


アザレ、その顔もかーわーいーいー!
と、言ったら、全力のボディーブローを決められた。
アザレは僕より背が低いくせに、力が強い。
痛みに、ちょっと泣きそうになった。


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