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4-17

この界隈で、銀(ぎん)と呼ばれている銀髪のソイツは、僕を瞳に映すとキラキラと瞳を輝かせた。
次の瞬間には、ものすごい勢いでこちらに駆けてくるのが眼下に映り。
跳ぶような勢いのまま、あっという間に僕がいるコンテナの真下にまで来てしまったようで、その姿は一瞬見えなくなった。
が、しかし。
すぐに、コンテナを乱暴に蹴りあげる音が響き、ここを駆け上ってきていることが容易に察せて。
その音がだんだん近づいてくるのを感じ、僕は何もかもを諦めた。

ええい、男は諦めが肝心だ!
こんな気持ちじゃ、ヤツには勝てないぞ、僕!

真後ろで音が鳴りやんだその時に、どんよりとした気分でゆっくりと後ろを振り返った。


振り返った、その先に見えたもの。


「キ・・・キツネー!」
「ぎ、ん・・・って、ぎゃー!!!痛ぇ!重ぇ!!」

目の前に現れたその顔を認識する前に、その長身に思いきり飛びかかられた僕の体は、勢いよく半分コンテナの上からはみ出てしまい。

ちょ、勢いよすぎじゃねぇの!?
うぅ、痛いし重いし・・・
つか、そんな痛みや重さよりも、この感覚だよ。
この上半身の浮いてる感。

背中の中ほどあたりに感じるコンテナの端に、恐怖でゾッと総毛立つ。

「バカバカ、どけって!とりあえずどけ!死ぬ死ぬ!!お、落ちる!」

全力で叫ぶも、僕を押し倒している当の本人はご機嫌に僕の体を抱え込んで、器用にぐるぐると猫のように喉を鳴らすばかり。
僕を抱き締めるそのあまりの力に、どんどんと体が外に押し出されているような気がして、ついに僕はその耳元で叫んだ。

「コルァ!銀!言うこと聞かない子は、嫌いになるぞ!」

まるで、言うことを聞かない犬を叱る飼い主のように。
怒りをこめて、そう叫んだその瞬間。

僕を抱きしめていた体は、ビクリと大きく震えて。
そして俊敏にその体を動かして僕の体をコンテナの上に引き上げ解放すると、僕の目の前に正座で座りなおした。
僕の体を拘束していた長い腕はピンと伸ばされ、膝の上。
背筋もキチンと伸びて、けれど力が入っているのか、かっちこちだ。
そしてその体の上に乗っかっている顔は、焦ったようにその整った眉をハの字に下げて、必死に僕を見つめて。

僕は銀がその体勢になったのを見て、やっとこさ安堵のため息をついた。




「銀。」
「う・・・ごめ、ごめんなさい・・・」

場所を少し変え。
とはいっても相変わらず僕はコンテナの上、先ほど僕にのしかかってきた銀を一段下のコンテナに移動させただけなんだけどね。
相変わらず銀は正座スタイルのまま。
段差はそんなにないから、僕はコンテナの端に腰をかけ腕を組んだ姿勢で、眉を吊り上げ、そんなかっちこちに固まった銀の顔を見下ろした。

「僕、前に言ったよね。いきなり飛びかかっちゃったらだめだよって。」
「・・・う、」
「言ったよね?」
「は、はい!」

もごもごと返答を鈍らせる銀に、少し強めに言葉を繰り返せば、帰ってくる大きな声。
僕はむっすりと銀の顔を睨んでいたが、ふいにそっぽを向いた。
そんな僕の様子に、銀の声が不安げに揺れる。

「キ、キツネ?」
「約束守れない子は、嫌いだよ。」

なるべく冷たく聞こえる様に、わざと声に抑揚をつけず、淡々と呟く。
今までの経験から、銀の慌てた言い訳が聞こえてくるのだろうと思っていた。
しかし、すぐに返ってくるだろうと予想した声は無く。
不意に予想外に続いた沈黙を不思議に思い、思わず視線を正座する男に戻して、ぎょっとした。

「ちょ、おま、泣くなよ!」
「だ、だってえ〜・・・キツネが、キツネが俺のこと嫌いってぇ・・・」

ひっく、と言葉の中に嗚咽が混じる。
そのなめらかな白い頬に透明な滴がぼろぼろと流れているのを見て、僕は額に手を当ててうなだれた。


あーもー、ほんと面倒な子!
そんでもってもっと面倒なのは、そんな子を絶対にほっとけない自分だよ全く!
しつけは厳しくしなきゃいけないのに・・・って、僕はコイツの母親かー!



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