4-6 「で?」 早苗さんはフレームレッドのBMWのバイクに跨り、長い足を投げ出してこちらを振り向いた。 BMWが似合う高校生っていったい何者だよ。 茶色のレザーのグローブをぎゅっとはめている姿が、恐ろしくカッコいいなんて。 ただもんじゃないぜ。ただもんじゃ。 そんなことを考えていたら、早苗さんが首をかしげて僕の顔を覗き込むように身をかがめた。 「どした?キツネ?」 ちなみに僕は、この界隈では”交渉人”もしくは”キツネ”と呼ばれている。 別に本名でも構わないんだけど、名乗る前にいつの間にか浸透してしまったこの呼び名。 前者はおそらく、あちらこちらでチーム同士、個人同士の喧嘩やらもめ事やらを、舌先三寸で仲裁してたせいだと思われる。 あと、こんな映画が流行っていたとかなんとか。うんうん。 僕がやっていたのはそんな映画みたいなスタイリッシュなもんじゃなくて、ちょっとした揉め事をまぁまぁ、と有耶無耶にするような曖昧なものだったのだけれども、どうやら結構重宝されていたのだと兄ちゃんたちから聞いたときは、思わず笑ってしまった。 ただ単に言葉が足りないだけで起こっている目の前のもめごとに、なんだかもやもやしたものが払えず、思わず口出ししてしまったのが始まりなんだけれども。 お節介なおばちゃんと変わらないんだよ、ね・・・。 ちょっと、あんたたち待ちなさーい!なんて、ね。ハハハ。 僕は常々思っているんだが、どーも、こういうところにいる皆さんは、言葉が足りない。 そして、言葉が足りないのに、分かってもらいたがって。 その上我慢も足りないから、すぐに手が出る足が出る。 なりふり構わない、けれどだからこそ強い。 自分を通す強さ。 それは他者を寄せ付けない強さだ。 どこまでも完成された狭い一人きりの世界で、磨かれているからこそ、それは強い。 でもそれは、諸刃の刃で。 他者を傷付けた刃は、だいたいが返す刀で自分をも傷付けるもんだ。 それでも一人きりの世界が心地よい人もいるし、傷付かないって言う人もいる。 それが良いか悪いかなんて、自分で決めればいい。 けれど。 ただ、もう少し楽に生きればいいのに、と思う。 人だろうが動物だろうが、のたうち回って苦しんでいたら、手を差し延べたくなるってーのが人情ってもんでしょう? もちろん出来る範囲での話、な訳で。 だからこれは優しさでも偽善でも正義でもなく、ただの僕の自己満足だ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |