4-5 「でも、これ収めんのは無理でしょー・・・」 上から見てみれば、これが相当大きな喧嘩だってことがわかる。 どう考えたって一言二言じゃ、収められない。 どう考えても、僕の手には余るよ〜。 どうせなら始める前に声掛けてくれれば、方法も考えられたのに。 「始まってからじゃぁ基本的に僕、何もできないしなぁ」 言葉は時に無力だ。 とりあえず聞いてもらえなきゃ、効果なんて現れることなどなくて。 こんな目の前の喧嘩に夢中になってる状態じゃ、どうしたって聞いてなんてもらえないじゃんねぇ。 「どちらかというと、この喧嘩自体はどうでもいい。」 「はい?」 「最近機嫌の悪い、「黒」のトップさえ止めてくれれば、な。」 玲爾さんは眼下を見詰めたままゆっくりと腕を組んで、ため息をついた。 「最近やたらめったら暴れ始めてな。憂さ晴らしのように毎日暴れるものだから、正直ウチも迷惑してるんだ。」 毎回駆り出されるウチもだいぶ疲弊している。 そんな玲爾さんの言葉に、早苗さんの声が続く。 「なんかもう、どこでもいいから喧嘩!って感じだもんなぁ。」 そして早苗さんの顔を見上げていた僕を、意味ありげに横目でちらり、と見て。 「まぁ、イライラすんのもわかんなくないけど、ね。」 と、呟いた。 僕はわかんないんですけど。 最近学校生活満喫してたから、会ってなかったし! わかるんだったら教えてほしいな!なんて! と、そう怒鳴りたいのも山々なのだが、なんでか二人ともその理由を僕には教える気はないようで。 変に白々しい雰囲気が、三人の間に漂っている。 なんだこれ。いじめか。新手のいじめなのか。 「イジメ、カッコワルイ。」 「ちっがーうよ。鈍感、ダメ、ゼッタイってな。」 「・・・自分で言うのもなんですが、僕ほど敏感な男も中々いないと思うんですけど。」 そう言う僕に、早苗さんは困ったように微笑んで。 それがどこかせつなそうに、嬉しそうに、複雑に歪んだ。 その笑顔が、妙に綺麗だった。 いつもの笑顔とは違う、なにかを想う。 最近どこかで、これと同じような表情をやたらと見たような気がしたけれど、けれどそれが何かはわからなくて。 僕は一度大きくため息をついてから、眼下の様子に背を向けて、入ってきた出口に向かった。 とぼとぼと力無く歩く僕の背中に、玲爾さんの声がかかる。 「できるか?」 「まぁ偶然にも、黒さんにはお土産持ってきてたんで。それでなんとか。できる、かもー?」 「なんだか怪しいな・・・。誰かつけるか?」 「うーん、いらないです。・・・あ、早苗さん来てくれる?」 振り返ると、いつの間にか早苗さんが背後にたたずんでいて。 びっくりして見上げる僕に、たれ目がチェシャ猫のように甘さと色気を含んでほほ笑む。 「もちろん。君が望むなら。」 ぞくり、と。 甘ったるい笑みと、甘い美声に、背筋を這うものが。 「・・・・・・と、とととと鳥肌が立った!ぎゃー!見て見て玲爾さん!チキン肌チキン肌!」 浮き出た鳥肌に思わず玲爾さんに走り寄ると、苦笑した表情が待ち構えていた。 「かっこつかないな、六日町。」 「・・・全くだよ。強敵だ。」 笑い会っているふたりを見てて、やっぱり仲いいじゃんね、と思った今日この頃。 [*前へ][次へ#] [戻る] |