SHOW ME!(古市)
「こーんにーちわー」
「あ、もしかして架矢ちゃん!?」
「あーい!」
少し長い呼び鈴の後、元気の良い声を聞いた古市は勢いよく立ち上がり、即座に玄関へと瞬間移動した。
喜色満面で扉を開けた矢先、そこに佇んでいたのは予想通りの愛しき彼女と、彼女を抱いた
「………なんでいんのお前」
「ん、なりゆき」
「こんにちは、ゆきお兄ちゃん」
「こんにちは〜架矢ちゃん……じゃなくて!」
何でいるのか理由を聞いてんだよ!と騒ぎだす古市に、彼のテンションを可憐に下げた男は頬を掻きながら「だからなりゆきっつってんだろ」と気だるそうに呟く。
時折ミーンミーンと鳴り響く蝉の羽音にビビる赤ん坊を背負った男は、紛れもなく彼と腐れ縁の友人だった。
*****
「で?」
「あー、ったくめんどくせえな。暑いわ、暑すぎて頭回んねぇわ」
「いつも回ってねぇだろ。つかそれでまだ暑いって感覚器官マヒしてんじゃねぇか」
両手に55●のアイスバー(俺のお気に入りのバニラ味)と、クーラー22度というバリバリ地球に鞭打つ温度の南極。しかも扇風機までもを占領してやがる。どこまで暑がりなんだコイツ、つーかアイス溶けてんですけど床にボタボタ垂れまくってんですけど腹下して死ねよもう!
「あのね、私がゆきお兄ちゃんのお家に行こうとしたらね」
「ん?」
イライラと友人の態度に眉を寄せていたが、舌足らずな言葉を紡いでいく架矢を見て些か頬を緩ませる古市。
夏休み、近所の娘が共働きで両親が家に不在のため、その両親から頼まれて彼がこの少女の面倒を見ることになっている。
けどそれが可愛いのなんのって。
(ん、あれよく見りゃ架矢ちゃんの目、少し赤いような…)
「ええと…大きな怪獣が来て、たつみお兄ちゃんがやっつけてくれたの」
「へ?」
一瞬、どこか宇宙の彼方からやってきたヒーローが脳裏に浮かんだが、すぐに首をふる。
「おー、そんでな、えーっと…オレサマ大活躍ー」
「ダーブー!」
「た、たつみお兄ちゃんね、すっごくかっこよかったの!」
こうやって怪獣をやっつけたんだよ!と身振り手振りで意気込んで説明する架矢に、状況が読めない古市は首をかしげるばかり。
─何ゴッコしてたんだ?
─架矢ちゃんがヒーローごっこ?いやいやこの娘はそんながさつな遊びじゃなくて、もっとお淑やかにままごととかが好きだったはずだろ。
「男鹿、遊ぶのはいいが架矢ちゃんにケガだけはさせんなよ。あとせっかくいい方向に成長してんだから男の遊びとか、…とにかく架矢ちゃんの成長の妨げをするな」
「…何言ってんのお前」
はあ、とため息をつく男鹿と、何故か少し萎れた架矢の姿が目に入る。心なしかうっすらと涙が浮かんでいるような…。
ギョッとした古市はすかさず架矢の顔を覗き込んだ。
「ど、どうしたの架矢ちゃん!?どっか具合でも悪い?」
静かに首を振る架矢に、クーラーの温度か!と気付いてリモコンを手に取る古市。
「ゆ、ゆきお兄ちゃん!違うの」
「え?」
Tシャツの裾から弱々しい力が彼を引っ張る。と同時に薄い紙切れが床の上を滑った。
「ん、なんだこれ」
「あ!!」
少女がしまった!という表情をしたのに気付いた古市だったが、生憎その紙切れを見たあとだった。
「海?」
「う……ん」
クレヨンで描かれたのは一面の青。
「これは女の子…架矢ちゃん?」
「うん…」
「隣の男の子は……」
「ゆ、ゆきお兄ちゃん!」
きっぱりと言い切った少女の頬は熟れた林檎のように真っ赤でふっくらとしていた。
「…コイツ、こんなクソあっついなかアスファルトの上でわんわん泣いてたんだよ。理由聞いたら浮き輪に穴が空いてたんだとさ」
「ゆきお兄ちゃんと海行こうって約束したのに…」
それでよ、どうしても泣き止まねぇから「それならオメェのダイスキなクソ古市くんに好きって言ってもらえる方法があるぜ」っつったらピタリと泣き止んだんだ。ホント単純っつーか素直っつーか。
感極めんどくさそうに言う男鹿に古市は口を半開き。
「架矢に『古市の前で俺を褒めちぎってかっこいいって言え』って言ったんだよ」
耳まで真っ赤であわてふためく少女に、直ぐさま古市が抱きついたのは言うまでもない。
おちゃめに背伸び
(架矢ちゃん!!)(う?)(海行こう今すぐ!!)(え、ホント!?)
男鹿は多分半分アイス目当て
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