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争奪戦(男鹿)

「ベル坊寝ちゃったよ」
「ったく…」
「今日は5回だったね、お疲れさま」

黒コゲの彼を見て苦笑い。
商店街を並んで歩いていると、隣の広い背中から小さな寝息が聞こえる。

「やっと静かになりやがったな」
「寝顔だけは…いや、寝ても起きても可愛いんだけど」

今しがたぐずっていたベル坊をあやすのに一苦労していた私たちは、ほっとため息を吐く。
眠たかったのだろう。
散歩がてらにぶらぶらと歩きまわって正解だった。

「じゃあベル坊も寝たしそろそろ帰ろっか」
「ああ?冗談だろ」

え?あなたも何冗談言ってるんですか。

抗議しようと口を開きかけた途端、それは叶わず右手に強い温もり。

「帰って起きりゃァ、またこいつに掛かりっきりだろ」
「そりゃ、まあ…」
「どーせ争奪戦が繰り広げられんなら、今くらいいいじゃねーか」
「…なにがいいんですか」
「遠回りくらい付き合え。公園寄るぞ」
「じゃあ古市くんちにでも行こう!」
「テメェ…そんなに殺られてぇのか」
「ウソですゴメンナサイ」

不服そうな顔で、だけどしっかりと握って放さない彼の左手に気づいて笑うと、優しくはにかむものだから何も言えなくなってしまった。

不意打ちだチクショー!

この笑顔に弱いと知ってか知らずか(おそらく9割方無自覚)彼に心中を悟られまいと冷静を振る舞う。

(とりあえず帰ったらベル坊のおむつの整理と…粉ミルクもそろそろきれるんだっけ。それからヒルダさんと夕飯の準備に)
「目の前に彼氏がいるってのに百面相とはいい度胸だな」

ああ、お見通しか。無理みたいだ。





手の掛かる甘えん坊

(ビギャアアアアア!!)
(べ、ベル坊!?)
(ああっ!?ったく、せめて帰るまで起きるなよ!!)





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あきゅろす。
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