[携帯モード] [URL送信]
ハローグッバイ
黒子っち、
あれ?ねえ?
黒子っちってば。
ねえ、
笑ってよ
泣いてよ
怒ってよ
呆れてよ
…なんで返事してくれないの?
なんでこっち見てくれないの?
ねえ
黒子っちが見てくれないと、俺、

[ピピピピピピッピピピピピピッ]
定期的な電子音で目が覚める。手のひらや背中は汗でじっとり湿っていて気持ち悪い。
未だに夢と現実の区別がついていないのか心臓はばくばくと速く脈を打っていた。
はあ、と息をひとつ吐いて心臓を落ち着かせると同時に、寝心地の悪いベッドから立ち上がり制服に着替える。手早く準備を済ませ、いつもより15分早く家を出た。

「あ、」
前方に見慣れた背中を発見。帝光中の制服に身を包んだ自分より頭ひとつ分小さい背中に声をかける。
「黒子っち!」
なおも背中は歩き続ける。
(あ、れ?)
声が小さかったのだろうか、ともう一度大きな声で呼ぶ。手の平は嫌な汗で湿っているし、心臓はばくばくと異常なスピードで早鐘を打つ。まるで、
そう、まるでそれは今日見た不快な夢のような感覚で。

(どうしていいのか分かんなくなるよ、)

ぐるぐると回る視界と、段々と遠ざかる背中に、吐き気を覚える。

「あの」

視界が、揺れた。
これは夢なんだろうか。

(ねえ黒子っち。
俺を置いて行かないで。)






「軽い疲労と貧血だそうです」

はあ、と少し溜め息をつきながら目の前の黒子っちが言う。どうやらあの後倒れた俺は、たまたま通りかかった青峰っちに抱えられて保健室に放り出された、らしい。後で青峰っちに会ったら謝っておこう。
目が覚めたのはついさっきで、今は二限目と三限目の休み時間らしかった。

「黄瀬君、聞いてますか」

覗きこむ瞳は、いつもより少しだけ表情を持っている。心配してくれたのかな、なんて思いながら生返事を返すと、唐突に額に痛みが走った。ご丁寧にもバチンという音と共に訪れた痛みの正体は、黒子っちの右手だった。指の曲げ方からして、平手じゃなくデコピンをされたらしい。

「なに…っ」

「ちゃんと聞いてないからです」
本当に心配してくれたのだろう。いつもの淡々とした、発せられることが目的なだけの言葉なんかじゃない。今の黒子っちが発する言葉一文字一文字から、何かが胸にじわりと、暖かく広がるのを感じる。

「心配、しました」

うん、と今度は生返事じゃなく真剣に返す。
心配かけてごめんって、この気持ちが伝わればいい。そんなことを考えながら近くにいる黒子っちを引き寄せる。出来れば離したくない、なんて思わせるそのぬくもりを今はただきつく抱きしめた。


「夢じゃなくて、良かった」

不意にそう言っていた。黒子っちがいなくなる、なんて。あるはずないのに。
俺は酷く安堵していた。…どうしてかは、知らない。ただ、黒子っちはここにいる。それでいいから。


「本当に、――――――。」


俺の顔を覗き込む黒子っちの顔は、泣きそうに揺れていた。


ハローグッバイ
(夢でも現実でもないの)


120527
全中試合後の日常




第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!