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「ほなちょっと待っててなー!」



お弁当箱を置いてくると言って志乃はばたばたと慌ただしく自分の教室に戻って行った。…あれから小春と戻ってきたユウジと志乃による口喧嘩が勃発したものの、千榎ちゃんの"今喧嘩やめたらジュース奢ってやろう"発言に聡く反応した志乃の覚えてろよ!というわかりやすい捨て台詞であっさり終焉を迎えた。(多分その台詞言ってみたかっただけなんだろうな)



「沙依?ここでなにやってんねや」

「蔵!」

「…ども」

「こんにちは、水原さん。身体測定ん時ぶりやな」



誰かに貸していたのか教科書を片手に笑う蔵ノ介は惚気じゃないけどやっぱり綺麗だな…羨ましい限りだ。そんな蔵ノ介に私達が四組の前にいる理由を話そうとした、ら。



「あー!沙依ニヤけとる!」

「ええっ!?に、ニヤけてないよ!」

「ふしだらやわ、もう!」

「うんちょっと黙ろうか」


なんでこんなにテンション高いんだこの子。

お弁当箱はもう置いてきたみたいだしその理由は歴然としているのだけれど



「千榎、千榎!はよ行こ!」

「…ほんと分かりやすいな。てか遠慮という言葉を知らないのか」

「そんなんウチの辞書にない!」

「そうか…そんな大事な物が欠落した辞書なんて古本屋にでも売ってしまえ!」

「近所に古本屋ないから嫌や!」



問題点はそこなんだ、と思いながらくつくつ笑っている蔵ノ介と二人の漫才のような言い合いを眺めてみる。私達の視線に気付いた千榎ちゃんは前髪を軽く掻き上げて溜め息を吐いた



「……志乃、あたし疲れたからお金あげる。だから一人で行っといて」

「寂しいやん」

「うさぎか」

「うん」

「真顔で頷くな。…志乃はどっちかと言うとサバンナを生きるライオンでしょ」

「なんでやねん!」



また言い合いが始まるかと思いきや志乃が強制的に千榎の腕を掴んで行った。どうせ移動しながらさっきの調子で言い合うのだとは思うけど。あ、てか私置いてかれた。遠くで千榎ちゃんが少し焦ったように私をちらっと見たからひらひらと手を振っておいた



「ははっ、沙依見事に置いてかれたなぁ」

「…言わないで」


手は振ったもののちょっと置いてきぼりにされたことは寂しかったりするけど、蔵ノ介がいるから許す


「蔵はどこ行ってたの?」

「ああ、これか。謙也に貸しててん。沙依は…志乃待ってたんやな」

「うん」


仰る通りで。

まだかなぁと二人が消えた廊下の向こうを眺めていたら背後から突き刺さるような視線を感じた



「沙依?」

「…えっ?」

「どうかしたん?」

「や、ただ二人遅いなって」

「…自分ほんまあの子らのことすきやねんな」

「うん!」

「ま、たしかにおもろい子らやけどな。志乃は相変わらずやし」



今日は本当によく笑う蔵ノ介がまたくつくつ笑いながら私の頭をくしゃりと撫でた



「せやけどあんまあの二人ばっかやと流石に妬けるわ」

「え…、えっ?志乃達女の子だよ?」

「冗談や冗談」

「…冗談?」

「嘘」

「嘘?」

「冗談」

「………どっち」

「さぁ?」



どこまでもはぐらかそうとする蔵ノ介に問いつめようとしたらいきなり視界が真っ暗になった



「わ、わっ!?」

「だーれだ」

「千榎ちゃん?」

「と見せかけてのウチでした!」



まさかのフェイントですか
勝ち誇ったように笑う志乃の後ろにはパックのジュースを片手に一個ずつ持って声だけ出していたであろう千榎ちゃんがいる



「もー…、おかえり」

「ただいまー!」

「ほら志乃自分で持って」

「ごめんごめん」



嬉しそうに千榎ちゃんに奢ってもらったジュースに口をつける志乃を見て横にいる蔵ノ介があ、と声をあげた



「そういえば明日うちのクラスに財前来るで、志乃」

「ごふっ」

「だ、大丈夫!?」


むせてごほごほと咳き込む志乃はジュースが変なところに入ったのか傍にいる千榎ちゃんの腕をばしばしと叩いている。あ、迷惑そう


「どゆこと白石」

「一昨日急にメールきてクラス聞かれてん。理由聞いたら明日挨拶しに来るって」

「なんの?」

「明日から新入生も部活始まるからちゃう?」

「ほー。で、なんで白石のとこ来るん」

「なんや志乃、嫉妬か?」

「ちゃうわきしょい!」


「…沙依ちゃんそろそろ教室戻る?」

「え、いいの?志乃…」

「時間ない。じゃっ」

「わっ、ほんとだ。それじゃあね蔵、志乃」

「おん」



気付けばもうお昼休みが終わる数分前。そしてその数分も千榎ちゃんに財前くんのことを質問されて終わりを告げた。ていうか蔵ノ介の中で嫉妬という単語が流行っているのかな。結局は私の脳内の半分はどんなくだらないことだろうと常に白石蔵ノ介が占領するんだなぁ、なんて一人で苦笑すると千榎ちゃんに大丈夫かと本気で心配された。少し傷ついたのは秘密









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