『今時珍しい、礼儀正しい高校生』そんなイメージで塗り固められた学校生活を送っていた。
サッカー部キャプテン、生徒会長、成績は常にトップの秀才、優秀と言われる肩書を幾つも持っていた俺にとって、同級生や先生達でさえ釣り合わない生き物だと思っていた。
「市木君て、勉強も運動も何でも出来て、性格もいいし、カッコイイし完璧だね」
返答も煩わしい台詞を飽きるくらい何度も言われた。
たまたま背の高い家系に生まれて、たまたま整った顔になっただけ。
言い寄ってくる女が絶えなかった。利益を期待して友人面する奴もいた。うざくてしょうがなかった。毎日がつまらなかった。
…あの人を見付けるまでは。
正確には見付けられるまでだけど。それだと何か違うから言い直す。
何故なら…
「おい、さっき現文の館先生が呼んでたぞ」
「俺を?」
「あぁ。なんか優基に頼みたい事があるってさ」
館先生とはサッカー部副顧問と部長という関係だったから、現文の館と言われてピンとこなかった。
部活関連なら部員伝えなはずだから、今回は違うのだろう。
「わかった、サンキュ」
マンモス校とまではいかないが、各学年それぞれに校舎がある学園はそれなりに広い。職員室は一つなものの、先生達は自分専用の教科室がある為不在がほとんどだ。
館先生は丁度三年校舎の二階に専用部屋があった。何度が訪れたそこは、先生の部屋というには綺麗過ぎる片付いた印象だった。
「先生、市木です。失礼します」
“三年国語科・館”という名札の掛かった部屋をノックし入る。
館先生はお昼中だったのか、コーヒー片手にサンドイッチを摘んでいた。
「来たか。悪いな、昼休みに」
「いえ、もうお昼は済ませたんで大丈夫です。先生こそ大丈夫ですか?食べ終わった頃にまた来ますけど…」
食べかけのサンドイッチに目をやりながら、申し訳なさそうに言う。
慌てて館先生は残りを口にほうり込んだ。少し苦しいのか、涙目になりながらもコーヒーで一生懸命流し込んでいるのが見て取れた。
「いやー参ったな。俺が呼んでおいてのろのろ飯食ってんなんて。気を使わせて悪かった」
「そんな事ないですよ。俺こそ急かしたみたいですみません。それで先生、俺に何の用事ですか?」
頼み事と聞いていたが、どうも納得がいかなかった。
理由はと聞かれれば、ただの直感だとしか言えなかったが、俺は今まで自分の感を信じていたしこれからもそうだ。
「あー、そう頼み事…ね。ごめんな、それ嘘なんだ」
「やっぱり」
「え?」
「いえ、なんでもないです」
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