この気持ちも届くだろうか?
やけに寒い日だった。
いつものカーマインのコートを着ていても指先から冷えていく。
「はぁ…」
白い息を吐くと、風がびゅーっと吹き抜けた。
空は残照が夜の闇に飲み込まれていく。
冬の匂いがした。
ひんやりした空気になんだか泣きそうになる。
「…咲!」
「滝沢く…ん」
聞き覚えのある声に振り向くと、滝沢が手を振っていた。
こんな闇の中でも、その姿がはっきりと見える。
彼にも私は見えているのだろうか?
「こんな所でどうしたの?」
咲が率直に聞くと、滝沢はにっと笑った。
「なんか咲に会いたくなってさ」
「っ…!」
この男はさらっときゅんとする事を平然と言う。
その台詞を聞く度に咲の心拍数が上がるのを、彼は分かってて言っているのだろうか。
相変わらず、掴めそうで掴めない。
ふらふらと蝶みたいに舞って、捕らえる事を許してくれないんだ。
「今日寒いね。」
「うん…私もさっきそう思ってたの。」
「…そっか」
何を思ったのか滝沢ははいっと手を差し出す。
「……?」
「だから、手。」
これは手を繋ぐって事なのかな?
咲がその手を取ろうか迷っていたら、滝沢がぎゅっと手を握ってきた。
「寒いんでしょ?こうした方があったかいじゃん。」
「そ…だけど、」
だけど、と咲は言葉に詰まってしまう。
なんだか滝沢くんには考えてる事全部バレちゃってそう。
私が会いたかったとか、淋しかったとか、手を繋ぎたかったとか。
滝沢くんを掴めなくて不安な気持ちも。
「あのね…」
「うん?」
「私も滝沢くんに会いたかったの…」
そう言って、軽く背伸びをすると、咲は滝沢に小さなキスをした。
この気持ちも届くだろうか?
2009.9.22
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