大さん橋埠頭、雨はまだ止まない。
雨はまだ降っていた。
指先はひどく冷たいのに、顔だけがやけに熱を持った。
さっき唇に触れた感触が拭えない。
未だ、信じられずにいた。
滝沢くんは何を考えているか、よく分からない。
なんで、ため息なんてつくのって思っちゃう。
そしたら私、滝沢くんに全てさらわれても怖くなんてないのに。
ぐるぐると考え出した感情は止どまる事を知らない。
咲はぎゅっと掌を握り締めた。
失われた熱を取り戻すように、力を込める。
ずるい事考えてたの、バレてたんだろうな…
白い息を吐く。
目の前の滝沢の背中は、まだ大さん橋埠頭からの景色を眺めたまま動かない。
まるで切り取ったような景色が、涙で濡れて霞んで見えた。
全部雨の所為にしちゃいたい。
ふと、咲は思った。
でも、すぐにふるふると首を振る。
雨の滴が手の甲に落ちた。
…違う。
私の所為だ。
滝沢くんに慰めてもらいたくて、あんな事言って…
恥ずかしい。
でも、それでも分かってて滝沢くんは慰めてくれるんだね。
優しい人。
あの人よりずっと、きっと優しい。
「ごめんね…」
聞こえるか聞こえないかの声で、ぽつりと呟いた。
こんな台詞言わせたかったわけじゃないよね。
優しい人。
だから今は甘えないね。
本当はその胸に飛び込みたいけど、これ以上惨めな気持ちにも、狡い気持ちにもなりたくない。
滝沢くんも傷つけたくない。
その優しさに甘えたらダメだよね。
微かに滝沢の肩が動いた気がして、咲はその背中に精一杯の気持ちを込めて微笑んだ。
大さん橋埠頭、雨はまだ止まない。
2009.9.5
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