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雪国《Alvaro》

「…え?」

「まさに『トンネルを抜けるとそこは雪国であった。』だな」


そう、まさにその通りなのだ。

今、私は魔法薬学の授業の一環でラティウムからずっと北の地方に汽車で向かっている。

その地方にしか生えない珍しい薬草を取ってきて実験するのだ。


「嘘…これ、全部が雪?」

「当然だ」


個室の席の向かいに座っているアルバロは、その長い足を窮屈そうに組んだまま、つまらなそうにしている。

二人きりだからか、アルバロの態度は彼本来のものである。

辺り一面真っ白なこの風景にも驚く様子はない。



「…アルバロは珍しくないの?」

「ああ。もっと北の地方に居たこともある」


もっと、聞きたい。そう思ったのに、車内アナウンスが降りる駅の名前を告げてしまった。


「〜〜っ!!」


一歩、汽車から真っ白なホームに降りると、びゅうっと雪まじりの強い風がマントをなびかせた。

防寒対策はしてきたつもりだったけれど、思っていた以上に寒い。


「ルルちゃんは雪国初めて?」

「う、うん…こんなに寒いなんて思わなかったわ」

「大丈夫?もっと厚着しなきゃ、すぐに体調を崩すよ。ほら、足元も気をつけて」


転ばないように手を貸したりと、さっきとは違い、他の人に見せつけるようにアルバロは私を構ってくる。


「こんなに寒いのはもっと山の方だと思ったから、いろいろと荷物に入れちゃったの」

「そっか。じゃあ、宿に行くまではこれ使いなよ」


そういって、アルバロはふわりと自分のしていたマフラーを私の首に巻いた。

思いがけず近くなったマフラーから香る彼の香りと、残る彼の体温に、きゅうっと胸が締めつけられる。


「あ、ありがとう」

「どういたしまして。ねぇ、マフラーはこのまま交換しようか」

「どうして?」


いいことを思いついた、と笑うアルバロに嫌な予感がするのは仕方ない。


「だって、授業中はずっと一緒に居てあげられないから。俺のものって、主張しないとでしょ?」

「…アルバロが何考えてるのか、本当にわからないわ」

「そうかな?俺はすごくわかりやすい男だよ」


わかりきった嘘で、にっこりと笑って私の手を握る。

そんなアルバロに呆れたふりをして、私はこの想いを隠すのだった。

 

    『雪国』 

 

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