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薄氷の上で《Alvaro》R-18
 
「――嘘つき」

「…今さらだな」


彼は強引に私の両手を縛り上げ、ベッドにつないで自由を奪っておきながら、今度は正反対に触れるか触れないかのぎりぎりで頬から首、胸もとへと丁寧に手を滑らせた。


「んっ…くすぐったいよ、アルバロ」

「なんだ、酷くされる方が好きなのか?」


途端に彼の片手がぎゅうっと首を絞め、もう片手が制服のボタンを引きちぎって、無遠慮に膨らみを掴む。


「ぅぐ、ぁ…い、たい…」

「はっ…痛いくらいがいいんだろ」

「そんな、訳…っ!!」


息ができるぎりぎりの強さで絞められているせいで、苦しくてまともに反論もできない。そんな私を面白いのかつまらないのかもわからない、いつもの無表情で彼は見下している。


「優しくして欲しいならそう言え」


まっすぐに私の目を見るその瞳の色だけが、彼の欲情を映している気がする。

透き通るようなマゼンダの瞳は、この瞬間は私だけを見ているから。


「お願、い…優しくして…」

「始めから抵抗するな」


首を絞めていた手が離され、空気を求めて開いた口唇をすぐに彼がふさいでくる。

くちゅくちゅと全てを奪い尽くすかのように、彼の舌は私の口内を激しく蹂躙する。

だが、そこには快感以上の苦しさはない。


「んぁ…はっ、ん…」

「なぁ、ルル…?」


深いキスが終わると、そこにいたのはさっきとは別人のような甘くかすれた声で囁くアルバロ。


本当に彼には悪意しかない――













「愛してる…」













「いやぁっ!!!!!!」


その言葉だけは聞きたくなかった。

偽りの優しさ、偽りの行為、偽りの関係


偽りの恋愛――


そんなのはわかっていたけれど、その言葉は私の最後の砦だったから。


「やめてっ!!その言葉を言う資格なんてアルバロには無いわ!!」

「うるさい、俺とお前はそういう関係だろう」


―冷めた。


と、言い放ったアルバロはベッドから降りて瓶に口を付け、水をあおる。

ベッドに縛り付けられ、動けない私をそのままに。


「っ…そう、いう関係って、なに…」

「寝る関係」

「なっ……」


さらりと複雑な私たちの関係を言い表した彼に私は絶句した。


「違わないだろう。俺はお前が好きで、お前は俺が好き。肉体関係もある。そうだろう?」

「っ……!!」

「だったら別に愛してるって言うくらいおかしなことじゃない」


彼の言葉に、間違ったところなんてない。

でも、それでも…偽りの"愛してる"なんて聞きたくなかった。


「ふぅ…はっ、ぅ…」


なにも言えない。言いたくても、彼には言えない。
どうしようもないわだかまりが感情を高ぶらせて、涙が出るのを抑えきれない。


「へぇ…まだそんな気持ちが残ってたなんてな。嘘の"愛してる"は聞きたくない…ね。お前の希望をつぶすのにはまだ時間がかかりそうだ」


はっきりと艶然とした微笑を浮かべた彼が近づいてくる。

だが、その瞳は射殺すように冷たく私を見ていた。

怖い。咄嗟に逃げようともがくが、きつく縛られた手はほどけてはくれない。


「気に入らないな。泣いてないで反論してみろ」


ぎしっと音をたて、アルバロはベッドに座ってあらわになっていた私の胸に手を置いた。

まるでその手で心臓を掴むかのように。


「言え。嫌なんだろう?俺に"愛してる"って言われるのが」

「…今アルバロに言いたいことなんて何もないわ。この手をほどいてどこかに行って」

「それじゃつまらないだろう?…嘘なんかじゃない、俺はお前を愛してるよ」

「……最っ低。いつの間に私をそこまで想ってくれるようになったか教えてほしいわ……きゃ!!」


言葉遊びを楽しんでいたように見えたアルバロは、急に持っていた瓶を傾けてトクトクと私の身体に水をかけた。


「さあな…?もしかしたら今は俺の方がお前の事を欲しているかもしれないな」


…こうして、壊したくてたまらない


――パリン…


どこか軽い音がしたと思えば、生温かいものが頬にポタポタと落ちてきた。


「ア…アルバロ?」

「なぁ、"アルバロを愛してる"って言ってみろ」


くくっと喉の奥で笑いながら彼は私の耳元で囁き、そのまま汚れた頬を舌で舐めた。

離れて見えた彼の口は紅をぬったように赤い。驚く私の首に今度は冷たくとがったものがあてられる。

さすがに、何が起こっているか理解する。

自分の頬を汚して、今は首に感じる濡れたものが何なのか。

喉元を狙っているのが何なのか。


「ほら、言えよ。わざわざ言う理由を用意してやってるだろ?」

「…そこまでして、言わせることになんの意味があるの」

「嘘でも、一度言ったらそれは取り返しがつかないからだ」


軽薄な笑みで彼は蠱惑的に囁きながらも徐々にその手に力を込めていく。

もし言わなければ彼は本当に私の喉を切り裂くのだろう。

言いたくない。…でも、私が死んだら彼も死んでしまう。


――最低


わざと聞こえるように呟いてから、私はその言葉を口にした。



「そうだ、それでいい」


彼は満足げに微笑んで傷ついたそのままに、私の濡れた服を脱がしていった。








「ぁっ…!!やぁ、は、んんっ…あぅ、あぁ!!…アルバロ、アルバロっ……」





「…愛してる、ルル…」






  When is this ice broken...? 

 

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