強がりニュクス(トレイン)
強がりニュクス(トレイン)*
昼食後の眠気が襲ってくる時間帯に自室でうとうとまどろんでいるとスヴェンから集合がかかった。
ああ、今夜の仕事のことかと思いながら伸びをする。うーん、眠い。
亀のような動きでリビングに行くと、遅いと叱られてしまった。
「じゃあ、最終確認な。」
テキパキとあらかじめ決めておいた作戦を1人1人に確認するスヴェン。さすがパパ、しっかりしてるなぁと思いつつ自分の配置を確認する。
今夜掃除に行くのはここら辺で有名なマフィアのアジト。Cランクな割に賞金がえらく高いので、アネットお勧めの仕事だ。ランクに見合わない報酬の理由はマフィアのアジトが迷路のように複雑かつ、広いことにある。一度アジトに偵察に行った時、どこの豪邸かと思うほどだったのだ。
スヴェンが立てた計画はこうだ。まず私とトレインのペアが内部に潜り込み、そこでひと暴れして敵の注意を引き付ける。そして外で待機していたスヴェン達に合図を送り、二人が侵入した頃合いを見計らって、私とトレインは引く。無駄な弾丸の経費を節約するためだ。流石我が家のパパ。経費にまで気をつかうなんて。
そして下っ端達が私とトレインを探してまわっている間に、イヴとスヴェンがボスに手錠をかけてしまうというなんともスヴェン達にとって美味しい作戦。まあ今回の仕事は表向きは普段の仕事だが“イヴのライセンス獲得のための特訓”なので、美味しいとこ好きな私とトレインも納得した。イヴのためなら雑用だってやりますとも!
よし、大丈夫。今回も良い仕事しちゃいますよ、だなんておどけて言ってみせるとやっぱりスヴェンに叱られた。(仕事は真面目にやれ!だってさ。)
「ああ、そうだ思い出した。」
一通り私に説教をした後、スヴェンは今回の作戦の変更事項を述べ始めた。
「名前とトレインが最初に奇襲かけるだろ?」
「うん。」
「それ、名前一人でやれ。」
「え!?」
「トレインは名前と違うルートから攻めてくれ。」
正直言って私は自分の腕にあまり自信がない。(いや、あるにはあるけど…。)
トレインがいるからこそ、強いトレインと組むからこそ安心して行動出来るのだ。
以前単独行動で仕事をした時は散々だった。
それ以降、スヴェンは私がトレインと組むことを了承してくれたけれど、本当はトレインを単独で動かしたいはずだ。だってせっかく四人の掃除屋チームなのに、私のせいで三人力しか使えないのだから。
今回一人でやれとスヴェンが言ったのはイヴもスイーパーライセンス取得に向けて特訓するのだからお前も一人で仕事を出来るようにしろ、という意思表示なのだろう。
「え、じゃないだろ。もういい加減一人で大丈夫だよな?」
そう真面目に言われると私もただ頷くしかなかった。
* * *
内部侵入成功。
いつもならわくわくし始める奇襲の三分前。今日は楽しくない。隣にいるトレインは三分後、私とは別行動をとるのだから。
物陰に隠れて飛び出す瞬間を図る。ああ、もう嫌だ。
「おい。」
隣にいるトレインが私に声をかける。正直息がかかるほど近いこの場所で、しかも緊張状態にある今話しかけないでもらいたい。
「…なに?」
仕事に関わることだと困るので無視するわけにもいかず、律義に返事をする。
「緊張してんのか?」
「……別に。」
嘘。すっごい緊張してる。
でも絶対トレインにはばれたくない。だって後でからかわれるし、トレイン結構しつこいんだもん。もし相手がスヴェンだったら泣いて縋って助けてもらうけどトレインじゃ絶対やだ。
「ふーん…。」
「…何よ。」
「べっつにー。」
あーもうこの態度気に食わない!あとでトレインが冷蔵庫に入れといたミルク全部飲んでやる!
「ま、俺がいなくても頑張れよ。」
「トレインいなくたって出来るし。」
「ほー。」
トレインの方を見るとにまにまと楽しそうに私を見て笑っていた。
何そのにまにま笑い!あーもうむかつく!
「あと二分だぜ?」
「知ってる。」
「じゃ、また後で合流な。」
「……了解。」
「ん?どした?まさか怖いのか?」
今度はトレインの方を向かなかった。だって絶対にまにましてる!
「そんなワケないでしょ!いい?行くからね?行くからね?」
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
「…行かねェの?」
「あー!もう!今行こうと思ったのに!タイミング逃したじゃんか!」
「へいへいそりゃすいませんねェ。もう黙ってますよ。」
「そうそうトレインは静かにしてて。パーっと行ってパーっとやってくるから。パーっとね。パーっと。」
「……。」
「…パーっと。」
「……。」
「……あのさ。」
「なんだ?」
待ってましたとばかりのトレインの声色。あーもう分かってて言ってるんでしょ。性格悪いなこいつ!
「やっぱ一緒に特攻してくださ――」
「そうこなくっちゃな!」
言うや否やトレインはバッと陰から飛び出す。あーあ。後でスヴェンに怒られるだろうな。そう思いながらも緩む頬。
慌てて後を追う私。わくわくしてきたのとは別にドキドキと高鳴る胸。嘘やだ。何これ。うそうそ!まさかまさかそんなわけないって!
思わず前を走るトレインの背中をバシッと叩いた。
「いでっ!んだよ。」
「何でもないよバカ!」
「へいへい。」
強がりニュクス
20100703
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