―→アクアマリン(スヴェン)


あの日から十日。
スヴェン達は名前の記憶をすっかりなくしていた。
名前に関する物、関する記憶全てが消えたのだ。

今日はイヴの買い物の付き添いとしてショッピングモールへやってきていた。女の買い物は時間がかかる、とため息をついてトレインとスヴェンはイヴの後ろをついて歩く。そしてあの雑貨屋を通った。


「あ!お客さん!」

「んあ?」

雑貨屋からたまたま顔を出した店員にトレインが間抜けな返事をする。

「違う違うそこの白いスーツの人!」

「え?ああ、俺か?」

「そうだよアンタ。ほら、あの時一緒にいた彼女からのプレゼント。」

はい、と包装された箱を入れた紙袋を渡すと店員はさっさと店へ引っ込んでしまった。

「彼女?」

「ほースヴェンやるじゃねェか!」

イヴとトレインが好奇の眼差しを向けると、それに慌ててスヴェンが答える。

「し、知らねェって!誰だよ彼女って…。」

「ま、いーからとにかく開けてみようぜ。」

「賛成。」

二人に促されるままにスヴェンは包装をとき、箱を開けた。中から出てきたのはガラスで出来た卵型のオルゴール。底についたぜんまいをまわすと流れる音色。


「なんか暗ぇ曲だな…。」

「私これ知ってるよ。」



『ある愛の詩っていうんだよ。』



「ある愛の詩、だろ?」

言ってから驚いた。なんで俺はこの曲を知っているんだ。なんでこのオルゴールを見たことがあるんだ。なんで。

「スヴェン良く知ってたな。」

「私より先に言われた…。」

「あ、いやすまんイヴ。」

この後も何故かデジャブな光景ばかり。俺はおかしくなりそうだった。そろそろ帰るという二人に対し、俺はもう少し見てから帰ると言い、何故か俺は花屋に入った。


「いらっしゃいませー。あ、この間の。」

店員は何故か俺の顔を知っていた。そしてこの間の、と言った。
何故花屋に入ったのかもわからないのに、何を注文したら良いものか。花屋なんて滅多にこないからわかるわけがない。…適当に選ぶか。

「じゃあ、あれを。」

「かしこまりました。カラーですね。何色に致しましょう?前回と同じ色で?」

前回?何を言っているんだこの店員は。訳が分からないが、とりあえずそれでお願いした。

「はい、お待たせいたしました。」

黄色と白色と緑のコントラストが鮮やかなブーケだった。



『海行きたいの海!』



俺は何故か海に行かなくてはならない気がして海へ向かう。



『今から目瞑って十数えて。それで十までいったら私に花束を投げてね。』



聞いたことのある声がした。
何故か俺はその声に従う。紙袋の中でオルゴールが鳴っている気がした。
心の中で十数えてゆっくりと瞼を開く。





『スヴェン、大好き。』




「名前…?」

笑った彼女が夕日に透けて見えた気がした。
そうだ。そうだ。名前だ。このオルゴールを気に入ったのは名前。花を一緒に買ったのも名前。海に行こうと言ったのも名前。そして十数えてくれと、ブーケを投げてくれと言ったのも名前。
そして名前はいなくなった。


俺は紙袋の中からオルゴールを取りだすとぜんまいを巻いた。流れるのはある愛の詩。ブーケを大きく海へ投げた。夏色をしたブーケは波に流されていく。




「……ありがとな。」




















「お嬢さん、レディがそんなに泣くもんじゃないぜ。」

「あなた、だあれ?」

「俺か?俺は紳士だ。」






ぶ く ぶ く
 ア ク ア マ リ ン


20100722
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空が青いから、書いてしましました。空が青いと人魚が泳いでいるような気がします。大好きです人魚さん。
映画「ある愛の詩」と、オルゴール専門店のオルゴールを参考にさせていただきました。
映画とオルゴール専門店のurlは日記の方に載せておきます。
実はスヴェンゆめはこれが初だったりします。なのにこの長さ(笑)そして終わり方の悪さorz
人魚は成長が早いと何かの本で読んだ気がします。だから1年で子供から大人予備軍まで成長しました。わかりづらくてごめんなさい。
バッドエンディング嗜好者なのは私です。ごめんなさい人魚さん。
ちなみにカラーの花言葉は、黄色が壮大な美、白が愛情・乙女の清らかさだそうです。熱意なんてのもありました。

人魚さんに優しい未来がありますように。

愛川 凪

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