狼さんをペロリ(トレイン)
つんつん。つんつん。
「……。」
「ふふ、」
つんつん。つんつん。
「……。」
「肩甲骨〜。ふふっ。」
「あのよォ、」
「んーなに?」
ベッドで私に背を向けて寝そべっていたトレインが痺れを切らしたのか背を向けたまま私を呼んだ。ちなみに私はベッドの下に膝立ちで彼の背中をつつき続けている。
「俺今寝るとこだから邪魔しないでくんね?」
「ええ〜やだ。」
なおも肩甲骨をつつき続ける私の手をパッパッと払い除けるトレイン。
むう、私だって好きで肩甲骨触ってるわけじゃないんだい。それくらいわかればか。
「だああ!しつけェ!ほら、あっちいけ!姫っちにでも相手してもらえ!」
勢いよく起き上がったと思ったら私の手をベッドの上から払って、しっしと追いやった。失礼な。私は犬じゃないぞ。
「イヴは読書で忙しいの。」
「俺も忙しいの。」
「ひーまー。」
「あっそ。」
言いたいことを言い終えたらしく、彼は再びごろりと寝転がった。
「ねーってば。」
ひらひらと手を振られた。どっか行けということだろう。こんにゃろう。
「起きてよー。」
「……。」
無視を決め込んだらしい。
まったく失礼な話だ。かーわいい女の子がベッド横で遠回しに構えと言っているにも関わらず、この男は背を向けたまんま。
ぼすっと私もベッドに乗っかって正座してみた。全然こっち見ないじゃんか。彼女が同じベッドの上に乗ってるんだぞ。少しは気にしなさい。
「起きろばか、」
「……。」
「……万年寝太郎。」
「……。」
「そんなんじゃいつかデブラックキャットになるぞ、ばか。」
「……。」
「好きだばか。」
「お前なあ!バカバカうるせ――」
がばっと勢いよく起き上がったトレインはこちらを振り向く。が、言葉の意味を理解したのか勢いを無くして急にしどろもどろし始めた。わはは照れてる照れてる。
というか、思ったよりも顔近いかも。う、わあキス出来そう。
思わずトレインの唇に目がいく。気づくと小さなリップ音を立ててトレインの唇と挨拶を交わしてしまっていた。わー。勢いでキスしちゃったよー。私盛ってるみたいじゃん。でもでも普段なかなか恋人らしいことをしてくれないトレインが悪いんだからね。うん、そうだそうだ。ブラックキャットのくせして純情とかいうのがいけないんだ。大事にしてくれてるのは嬉しいけど、たまには私だっていちゃいちゃしたいんだ。もっとこう、強引に振り回されたい時だってあるんだ。あーもう完璧に私、盛ってる。
トレインから反応がないのでもう一度キスしてぺろりと唇を舐めてやった。うふふーどうだ参ったか。
顔を離して反応を伺う。
私、にんまり。
トレイン、唖然……と思いきや、ぼっと本当に音がするんじゃないかってくらいいきなり顔を赤くさせてあたふたと慌て始めた。してやったりーと思うと同時に滑るトレインの手。
危ないと思った時には既に手遅れ。体を支えていた腕のバランスが崩れ、トレインはベッドの下へまっ逆さま。うっわ、痛そう。
「…大丈夫?」
ベッドの上から覗きこむと、彼は痛そうにするどころか更に後ずさって私から距離をとろうとしていた。
「おっおおお前なあ!」
ぱくぱくと口を動かして金魚みたいと場違いにも笑ってしまった。
まさかこんなにも反応がいいだなんて思ってなかったから。
「ばっばばっばっ、」
「ば…?」
「バカじゃねェの!!!」
そのセリフを捨てて彼は部屋を出て行ってしまった。残された私はベッドにぽつん。
飢えたあかずきんは、
狼さえも襲うんです。
(反撃してくれたっていいじゃない!)
その後、しばらくはトレインに警戒されて近づくことさえ出来なかった。
トレインのばかやろう。
20110131
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