I wanna(トレイン)*

わいわいがやがや。
喧騒が耳に痛い。
二ヶ月も前から聞いていた大好きな曲達が今日は苦手なジャンルの音楽に聞こえた。
今日の為に緑、赤、白に彩られた明るい街は、沈みきった私の目には酷く眩しい。


「な、これとかどうだ?」

さっきから目を輝かせて、あれよこれよと手に掴んでは私に見せてくる彼の横で私は疲れきっていた。
けれどそれを表に出せないくらい、私は彼に甘い。


「いいと思うよ。可愛いし。」

「……でもやっぱ何か違う気がするんだよな。」


そう思うのなら最初から私に聞かなきゃいいのに。

彼、トレイン君の右手に掴まれた不細工なぬいぐるみは乱暴に棚に戻された。少し可哀想だったので彼が歩き始めてから、さっと元のように座らせてあげた。ごめんね。



色んな店を物色し始めてかれこれ四時間。その間一度も休憩はない。張り切って履いてきた慣れないヒールに足は悲鳴をあげていた。


「ね。トレイン君少しさ、」

「ん?」

「……あっちの方も見てみようよ。いいものありそうだし。」


――休憩しない?
その言葉は彼の笑顔のせいで簡単に飲み込まれてしまった。足痛いけど、あと少しなら平気。大丈夫。我慢出来る。


「、おう。」


スタスタと雑貨屋を目指して前を行く君を追いかける。


店内はクリスマスだってのに多くの人で賑わっていた。クリスマスだからこそ、か。カップルだらけだ。もしかしたら私とトレイン君もそう見えるのかな?

足に鞭打って、少しだけ彼に寄って歩いてみる。触れられるほど近い距離。でも、触れられない。


雑貨屋は酷く私好みの店だった。
トレイン君が小物を物色する中、私はその隣の棚にあるマフラーに目を奪われた。白地に小さくワンポイントのついたそれは、これまた私の好きなふわふわとした私好みの触り心地のものだった。
そういえば今年はマフラー買ってなかったな。…せっかく買い物来たんだし、買おうかな。



今日――クリスマスに何故恋人同士でもない私と彼が二人でいるのかというと、それは四日前に遡る。

「今週の日曜、付き合ってくれないか」と絶賛片思い中のトレイン君に言われ、有頂天になりすっかりめかしこんで来た私に彼はこう言ったのだ。
『あいつにやるプレゼント選ぶの手伝ってくれ。…ほら、あいつもうすぐ誕生日だろ?』
サヤと私は随分と長い付き合いになる。だからこそ、彼は私に頼んだのだろう。
私の誕生日は何もなかったのに、と一気に落ち込んだが、そこは大好きな彼の頼み。私は笑顔で承諾した。



トレイン君個人の買い物に付き合うのならともかく、私じゃない女の子に贈るプレゼントの買い物だ。何か一つくらい自分にご褒美を買わなきゃやってられない。よし、買おう。


「ね、トレイン君。」

「んー?」

「あのさ、これ、」

「お!いいじゃねェかそれ!」


本当?嬉しい!
好きな人にそんなに目を輝かせて言われると嬉しいものだ。サヤの為にプレゼント選びに必死になってるのはわかってるけど、一瞬でもこちらに意識を向けてくれたのが嬉しくてたまらない。ああ、今日来てよかったかもしれない。そうだ、彼のサヤに対する気持ちは恋愛感情とは限らないじゃないか。ただの深い友情だってことも十分考えられるのだから。


「じゃあ私、レジ行ってくるね。」

「いや、俺が行く。ほら、お前は待ってろ。足疲れたろ?そこの椅子座ってていいぜ。」

「ええ、そんなの悪いよ!」

「いいから座ってろ。俺が行く。」

「あ、ありがとう!」


ニコニコと笑うトレイン君を久しぶりに見た気がする。この笑顔もサヤのお陰で出来るようになったんだよなぁ。
正直会ったばかりの頃のトレイン君は怖かった。あまりにも人間らしい感情に欠けていて。
まさかそんなトレイン君がプレゼントしてくれるだなんて思っていなかった。彼もクリスマスを意識したのだろうか…。そしたらクリスマスの日に一緒に歩いている私のことをどう思ったのだろうか。彼が帰ってきたら思い切って聞いてみようかな。




「お待たせ。ホント、ありがとな。お前がいてくれて助かったぜ。」

「ううん。友達だもん。当たり前だよ。それより、」

チラ、と彼の右手の袋に目を移した。お金、どうしよう。やっぱり一回は払うとか言った方がいいよね?


「あ、これか?ラッピングで赤と青のリボンで迷ったんだけどよー、やっぱ赤だよな。」

ええ!?わざわざラッピングまで…!そんな、いいのに!


「ありが、」

「きっとサヤ、喜ぶぜ。」


え……?


「あ、お前はもうサヤに誕生日プレゼント買ったのか?」


やだ…。
やめてよ。そんなに嬉しそうに笑わないで。


「まだなら、これ、俺ら二人からってことにして――」

「――いいよ。それはトレイン君からサヤへのプレゼント!私は別で買ってあるから。」

「いいのか?」

「うん!ぜーんぜん!」


「…サンキュ。お前、ホントいい奴だな。」






いい奴だなんて言わないで。私が今どんな気持ちかだなんて、ちっとも知らないくせに。
そんな顔で笑うなんて、残酷な人。



それでも
ピエロは愛されたい

あなたを笑わせるのが私の役目。



20101221


ゆゆ子様へ

キリリク大変遅くなってしまい、申し訳ありませんでした!


あきゅろす。
無料HPエムペ!