いつだって夢みるの(gZ)
よし、メイク完了!次は髪を…と思ったところにタイミングよくドアが開いて、ジェノスが顔を覗かせた。
「あ、ジェノスちょうどいいとこに」
「うっわなまえちゃんどうしたの?」
「?」
「目ぇ真っ黒じゃん。ってか化粧こ――」
「うっさいバカジェノス!」
「あだっ!」
手近にあったブラシを放り投げるとジェノスの顔にクリーンヒット。やだ、私ってば腕がいい。って、違う違う!
「ジェノス髪巻いて!」
「あたたた…何?なまえちゃんデート?」
「んーまあそんなとこ。」
「シャオ?」
うん、そう。だからシャオ好みに可愛く巻いてね。
こてを渡すと、ぶつぶつ文句を言い始める。もう、面倒くさいなー。
「この間のことリンスレットに言ってもいいの?」
「、げ!わかったわかったから!はい、お姫様〜前向いて〜。」
「それでよろしい。」
くすくす笑いながら鏡を見る。私はこの時間が一番好き。ジェノスが他の誰でもない私だけのことを考えて、触れてくれるこの時間が。
ジェノスにとってシャオは弟分みたいなもの。そのシャオと同じ情報収集班の私はジェノスにとって妹分。
そんな弟・妹が仲良しで、しかもお互い思い合っているのなら、ここは兄貴の俺が一肌脱いで…とはりきっているみたい。それが――私とシャオをくっつけることが――自分の勤めだと。
鏡にはせっせとジェノスが巻いてくれるのと、ジェノスの言う通り目の周りが真っ黒な私が映っていた。
「ねージェノス。」
「んー?」
「やっぱ化粧…濃いかな?」
「うん。前の方が俺は好き。」
「前のって?」
「俺とデートした時の。」
前デートした時?ジェノスとデートしたっけ?
「したした。ほら、この間の任務の帰り。」
「え、あれデートだったの?」
「もちろん。」
ただ喫茶店に寄って仕事お疲れ様だとか会話しただけ。そっか、あれ、デートだったんだ。
「あの時あんまり化粧してなかったけど…。」
「そうなの?でも今のより全然いい。」
たぶんシャオも濃いのよりは好きなんじゃないか?
「…うん。じゃあ直す。」
たぶん、いやきっとジェノスは私が化粧を直すのは、シャオが…と言ったからだと思うだろう。違うのに。
「はいどーぞ。」
「ありがとう。」
鏡にはふわふわと髪を巻いた女の子。私の大好きな時間が終わる。
「やっぱ、さっきより可愛くなった。」
さらり、とジェノスはやり直したメイクを褒める。
もう一度ありがとうと言う。
「服は?平気?」
くるくるとまわって聞いてみる。新しく買った洋服。見せるのはジェノスが初めて。
「うん。可愛い可愛い。」
嬉しい。けど。でも。
「あ、俺そろそろリンスちゃんとこ行かないと。」
「あ、待って待って。」
変に折れた襟を直してあげるとジェノスは、ありがとうと笑った。
「いってらっしゃい。」
「なまえちゃんもシャオとのデート楽しんで〜。」
「言われなくてもわかってるって。」
バタンと閉まったドアに私は笑いだしそうになる。
ああ、なんて皮肉。
私の想い人は大きな勘違いをしているのだ。
私もシャオに会いに行くために鏡の前で最終チェックをする。
そこにはジェノスが可愛いと言ってくれた私がいた。私はその格好でシャオに会うのだ。
どうしたって好きになれない彼に。
「私が好きなのはジェノスだよ…。」
いつだって夢みるの
彼の隣にいるのが私だったら、と。
20100224
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