ショコラ(gZ)

「ジェノス次右ね!」

「えっ?この先?」

「違うよ!ここ!右!」

「あちゃ〜。」


通り過ぎてしまった道をバックミラーで確認すると確かにそれっぽい道で、肩を落とした。次の角で曲がるべきかUターンすべきか。

レンタカーでなまえと旅行する予定を立てたのは昨日の明け方だった。俺の仕事が不規則なせいでなまえには不自由させているため、急遽出来た連休に二人してはしゃいだ。彼女は俺を休ませる予定だったらしいが、俺がそんなことはさせなかった。秘密結社という大きな組織の一抹殺人である以上、休みなんてほとんど無くて、帰宅時間も不規則で彼女には本当に迷惑をかけている。だからこそ、貴重な休みには彼女の喜ぶ顔がたくさん見たいのだ。最初こそ俺の体調を気にして渋っていた彼女だが、いざ当日になると張り切って身支度を整えていた。
稼ぎはあまり多くないが、普段使うことがあまりないので今日は金銭面を気にしないで彼女と過ごしたい。


「もう。あ、前に駐車場あるからそこでUターンしよ。」

「りょーかい。」


目的の宿までなまえにナビを頼んだがどうやら彼女は地図を読むのが苦手らしく、曲がる直前での指示を出すのでルート変更を何度もしていた。地図をぐるぐる回転させて分かるもんなのかね?そのまま見た方が分かりやすいだろうに。ルート変更をする度に難しい顔をして地図を睨む彼女の顔が可愛くて、どれどれと俺が覗き込んだときの不安げな顔もまた可愛くて。久しぶりに過ごす二人の時間に俺の顔は終始緩みっぱなしだった。


「えーっと、二個目の信号を左折してしばらくしたら看板があるみたい。だからあとはそれに沿って行けば…ってジェノス聞いてる?」


方向転換のために入った駐車場で一旦止まって、道を確認するなまえの顔を見ていたら思わず近寄り過ぎていたらしい。少し拗ねたような表情をする彼女もまた可愛くて、ああもう俺本当幸せだなぁ。


「ん、聞いてる聞いてる。」

「本当に?」

「本当本当。」


きっとデレデレとした俺の態度に呆れたのだろう。ため息をつく彼女もまた可愛い。

なまえと出会ったのは三年前。人を殺すという特殊な職業の俺をよくこんな子が受け入れてくれたと思う。少しでも時間を共有するために始めた同棲生活ももう二年目。怪我して帰ったら本気で怒って心配して、俺が寂しい時には甘えさせてくれる。秘密結社に属していると打ち明けたのはほんのつい最近だ。俺があれだけ巨大な組織の部品の一部であり、そのことを打ち明けることによって彼女に危険が及ぶかもしれないと思い、なかなか打ち明けられなかったのだ。けれど彼女は「抹殺人ってこと聞いてからはもう、ちょっとやそっとのことじゃ驚かないから大丈夫。それにジェノス、下っ端なんでしょ?下っ端の彼女なら危険にはならないよ。」なんてあっけらかんと笑っていたのだ。ずいぶんな大物なのかもしれない。
そうやって俺を支えてくれる彼女とこんな風に一生過ごせたら俺、もうどうなってもいいや。気持ちが溢れ出して止まらない。なまえにもこの気持ちが伝わればいいのに。


「ジェノス、顔近い。」

「ん〜。」

「ちょっと、」

「えーいいじゃん。」


少し強引だけれど、シートベルトを外して迫ると仕方ないといったようになまえが目を閉じる。
キス一つで気持ちが伝わるなんて思わないけれど、祈りを込めるように彼女にキスをした。

願わくば、彼女といつまでも、ふたりで。


20130408


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