はんぶんこ(トレイン)
ただいまーと言って荷物と上着を放り投げるなり、なまえは後ろから俺の背中にしがみついた。


「おい、」

「トレインただいまー。」

「それはさっき聞いた。」

「おかえりは?」

「…おかえり。」

「うん。ただいま。」


やけに甘えた寂しげな声で言うもんだから柄にもなく可愛いと思って素直に答えてしまう。

俺の胸の前で交差された白い腕は更にきつくなって、背中にごりっとした感触。おそらく額でも押しつけてるんだろう。


「メシ美味かった?」


友達とランチに行ってくるとやけに張り切って支度して出てったこいつを思い出す。なんでそんな気合い入れて支度してんだよって聞いたら、女同士には色々あるのと言っていた。色々ってなんだよと思ったが、面倒だったので何も聞かなかった。


「…普通。」

「ああ、そう。」


交差していた手が少し緩んで俺のシャツを握りしめて更に密着してくるなまえ。
なんかあったんだろうな、と察して口を開きかけたがすぐに閉じる。こういう時はええっと…ああ、そうだ。ストレートに聞いちゃいけないんだった。
こいつに普段から散々「トレインは女の子の扱いが分かってない」と言われているので、少しずつ察するようには努力している。面倒だけど、そうするのが賢いと流石の俺だって学んだからだ。女ってやつは案外面倒くさい。まあ、好きだからこそ、その面倒くささに付き合えるのだが。

胸の前にある白い右手を右手で絡めるようにやんわり包むと案外簡単に力を抜いてくれたので、もう片方も同じ要領ではがし、その腕を引いて勢いよく正面から胸の中に閉じ込めた。

なまえは寂しくなると胸が空っぽになるとよく言っていた。胸が寒いから隙間なく何かで埋めたいと。それで何かにしがみつくのだと。
正面からその寂しさを抱きとめて共有してやりたいなんて、俺も随分こいつに感化されてるんだな。
そんなことを思いながら、片手で頭を撫でて優しく背中を抱く。


「今日違う香水つけてったのか?」

「うん。お陰で変な感じだった。」

「そっか。」


なまえの中の何かを溶かすようにゆっくりと触れていく。言いたいことがあるなら言うまで待って。それでも言わないなら気づかないふり。そうすればこいつはホッとしたように笑うから。


「…なんかトレインさ、」

「ん?」


もごもごと言葉を探りながら話し出したなまえに、出来るだけ優しく答える。


「……なんでもない。」

「そうか。」

「うそ。好き。」


ようやく笑ったなまえは俺にぎゅっとしがみつく。


「いつの間にか良い男になっちゃってさ。」

「なんだよそれ。」

「私の扱いが上手いってこと。他の人にはしないでよね。」

「わーってるよ。第一やれねェって。」


こうやっていつまでも寂しさや好きを共有してやりたいなんて、俺は本当にどうかしてるらしい。


20130404


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