魔女のおはなし
01はじまりはじまり

バタンと勢いよく扉が開かれた音と共にバタバタと賑やかな複数の足音が階段を上がってくる音が聞こえた。


「おはよう魔女!」

2階奥のいつもの部屋で立てつけの悪い古いドアをギィギィと言わせながらどう直そうかと考えていた私のを見て、先頭の少年が嬉しそうに私に声をかけた。ドアから手を離しておはようとあいさつを返す。

魔女とは私のあだ名だ。軋んだ白髪に、青い血管が浮き出るくすんだ肌、真っ青な唇。その見た目から子ども達に私はそう呼ばれている。


「魔女はもうご飯食べた?」

「ええ、魚のハラワタとトカゲと血のワインを。」

魔女らしいラインナップを適当に並べて答えると、子ども達は、きゃー!魔女だ!と高い声をあげて喜ぶ。
いかにもな魔女らしさを含んだ回答にはしゃいでくれるようだが、魔女ってもっと怖がられるものじゃないのだろうか。まあ、喜んでくれるのなら何よりだけど。

「昨日は森の探検だったから、今日は魔女の話を聞きにきたの!」

息巻いた少女が話を聞かせてと私の服の裾を握る。
彼女の言う通り、昨日はここ、魔女の館を囲む魔女の森を探検したところだ。
魔女の森と呼ばれてはいるが、何の変哲もないただの森だ。池や果実のなる木もあり、この魔女の館に1人で住む私には大変貴重な食料源である。言わずもがな、魔女の館も古めかしいだけのただの洋館だ。
森を抜けて丘を下った先にあるという子ども達の住む村では魔女の森へ入ると呪われるという言い伝えがあるそうだ。そのため、ここにやって来るのは村の言い伝えを無視してやってくる冒険家のこの子ども達だけだった。
私の見目は子ども達の言う通りいかにもな魔女なので、言い伝えのお陰で大人が寄り付かないのは静かにここで暮らしたい私には大変ありがたいことだと思う。子ども達は楽しそうに魔女と呼んで親しんでくれているけれど、村の大人に会ったらそうはいかないだろう。自分の外見の不気味さについては理解しているつもりだ。私も館を離れて村へ出ようと思ったことはない。

「この間また夢を見たって言ってたでしょう?おはなしして!」

彼女の言う通り私はよく夢を見る。
ある日ふと思いつきでその夢に脚色を加えた“魔女のおはなし”を聞かせたところ、子ども達はたいそうお気に召したようで、それからは夢を見るたびに話をするようになっていた。思いつきで始めたとはいえ私もなかなかに楽しんでいる節があり、どう話そうかと今日も頭を働かす。私の方針は子ども達の夢を壊さないように、魔女らしく話を作り上げて話すこと。手始めにゴホンと勿体ぶった咳払いをして、ふっふっふっふっと私は魔女らしく怪しく笑ってみせた。


「さあ、座って。これから魔女の不思議なおはなし、してあげる。」

子どもたちがワクワクとした表情で私の周りに集まって座る。全員の顔を見渡し、聞き入る姿勢になったことを確認すると大きく息を吸い、話し始めた。




はじまりはじまり。


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あきゅろす。
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