[携帯モード] [URL送信]

小説という名の日記C(栞機能無し)
10

だが隣国に攻め入って来たのは王子の方。
戦を仕掛けたのは王子自身。

隣国の隊長が王子に問う。
花を踏むなと言うのならば、何故王子自ら戦を仕掛けてきた?
何故この山へと登ってきた?

真剣勝負の筈の戦いは、何時しか肩慣らし程度へと変わっていた。



花を踏みにじらせない為だ、と王子が叫んだ。

我が父上は侵攻を決意した。
父上の決意は揺るがない。
父上自ら指揮をとれば、花が踏みにじられる可能性があった。
踏みにじらせない為には、俺が自分で指揮をとるしかなかったんだ。
だがこの山の頂上にセリルが咲いているとは知らなかった。
早く戦を終わらせる為にこの山を登った。
此処に咲いていると知っていたら、この山を避けて進んでいた。



それは王子の悲痛な叫び。
この場所を荒らしたくないとの心からの訴え。

今、此処に居る誰もが戦意を失っていた。
隣国の隊長さえもが、振りかざしていた剣を下ろす。

だが戦は既に始まっている。
隣国も王子の国も、攻撃命令がくだされている。
止めたくても止められぬ戦。
それならばせめて。

せめて場所を変えて戦わぬか?
そう隣国の隊長が口にした時だった。



都側から聞こえてきた勇ましい声。
それは隣国の総隊長率いる第二部隊だった。

第二部隊の兵達が声をあげ突っ込んでくる。
総隊長の姿はまだ見えない。
止めろ、止めてくれ。
花を避けてくれ。
王子の叫びも耳に入らず、花を踏みながら突き進んでくる。

無残に散っていく花に、それまで頂上に居た誰しもが、花を避けろと声をあげた。
それでも血気盛んな第二部隊の兵達は止まらない。
王子目掛けて斬りかかっていく。



応戦しながらも王子は花を避けろと訴えた。
けれども次々に斬りかかる兵に、声が途切れがちになる。
足下に注意を払いながらの応戦は、防御するので精一杯だった。

味方の兵が王子を守ろうとする。
だが兵達は王子の声が聞こえ、その心も分かっているから迂闊に動けない。
花を踏めば王子の思いを踏みにじる事になる。
愛する者の願いの為に戦に赴いた王子の必死の思い。
兵達は足下を気にして助ける事もままならない。



[*前へ][次へ#]

10/12ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!