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小説という名の日記C(栞機能無し)
9

どれほど経ったか。
敷き詰められた花の向こう側で何かが動いた。

それは隣国の兵。
敵国が山を登ったとの情報を掴み、王子率いる兵を迎え撃つ為に、都のある側から登ってきた隣国の兵。
兵を引き連れた隣国の隊長と、辺り一面の花を挟んで対峙する。
互いに相手の様子を窺っていた。

此処はセリルの咲き誇る場所。
従者が見てみたいと言っていた場所。
この可能性の為に買って出た指揮。
この綺麗な花を踏みにじらせる訳にはいかぬ。

皆の者、花を避けて戦え。
それが王子の第一声だった。



思いも寄らない命令に、兵達は戸惑った。
花を避けろとは?
戸惑いながら王子と花を交互に見やる。

踏むな。散らすな。避けて通れ。
王子は真剣だった。

それはどういう・・・?
更に戸惑う兵達を余所に、王子自ら花を避け敵兵に突入する。
それを見た兵達も、王子の後に続けと、花を避けて敵兵に斬りかかった。

王子は花を踏もうとする敵兵にすらも大声をあげた。
頼む、花を避けて戦ってくれ。



敵兵は驚いた。
花を避けろ?
一体どういうことだ?
不思議な事を言う王子に視線が集まった。

敵兵の中から隣国の隊長が進み出てくる。
剣を振りかざし、王子へと声を発した。
何故花を避けろと言う?

剣を交えながら王子が答える。
この花だけは踏んではならぬ。
この花を見た者は幸せになれるという噂を聞く。
俺の愛する者がこの花を見たいと願いながら息を引き取った。
それ故、この花だけは荒らしてはならぬ。
頼む、花を避けて戦ってくれ。



剣を交えながら語る王子に、複雑な表情をしたのは味方の兵だけではなかった。
隣国の兵も、その隊長も、思わず剣を交える手が鈍る。

愛する者の願いの為に、敵にすらも花を避けて戦えと。
息絶えたというその者の為に、必死に頼み込みすらすると。
王子がどれほどその者を愛していたのかが伝わってくる。
本気で花を踏みにじらせまいとしているのが伝わってくる。
自国の兵だけでなく、敵兵にも頼むと訴える王子。

その必死な姿を見ては戦意も失われていく。



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