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小説という名の日記C(栞機能無し)
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人間の平均寿命が八十歳として、それは健康寿命ではない。
その平均寿命の半分を生きれば、人生も先が見えてくる。
それまではどんなに辛くても分からない。
万が一の可能性がある。
だから答えを出すのは平均寿命の半分を生きてから。
それが櫂の持論だ。

目の前で眠り続ける存在を、もうどれくらい見つめてきたことか。
麻人、とその名を呼んでも、ピクリとも動かない。
定期的に機械が生を伝えているだけで、もう二十年もの間、その瞳は開いてない。



麻人が交通事故で意識を失ったのは、櫂が高校生の時。
ずっと一緒に居られたらいいな。
まだ麻人が事故に遭う前、よく二人で語り合っていた未来。
若い二人は、その先にどんな未来が待っているかも知らずに、互いの傍を望んでいた。

二十年という年月は残酷なもので、二十年生きてくれただけでも感謝しなければならないのか。
回復の見込みはないと言われながらも、最初の頃は何時かという期待があった。
だがその期待は、年月と共に諦めへと変わっていく。
それなのに、ずっと一緒に居ような、あの頃の言葉に櫂は今も捕らわれている。



皆、歳をとったわね。
麻人の母親がポツリと呟いた。

女手一つで育ててきた彼女が、一人息子を見つめている。
蓄積された皺と白髪混じりの髪が、過ぎ去った年月以上の老いを感じさせていた。

彼女が言うように、歳をとったのは、皆。
彼女も歳をとった。
櫂も歳をとった。
麻人も歳をとった。
皆、歳をとっていくが、麻人は未だに目覚めない。
眠ったまま成長期を終え、眠ったまま老いていく。

疲れを知らない麻人。
疲れたのは、眠り続ける麻人を見つめ続ける彼女と櫂。

もう待たなくてもいいのよ。
麻人の母親が掛けてくれる言葉に、一呼吸置いて櫂は首を横に振った。
ずっと一緒に居ようと約束したから。
憔悴しきった彼女の横顔を眺めて、なんとかそれだけを言葉にした。



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