小説という名の日記C(栞機能無し)
2
彼女の瞳は彼を映さない。
彼は疾くに気付いていた。
何故なら彼女の温もりを知らずに過ごしてきたから。
笑顔が見たかった。
誉めてほしかった。
抱き締められた記憶がなかった。
それでもその瞳が何時か彼を見てくれると信じていた。
それは儚い希望。ささやかな願い。
けれども願った想いは軈て崩れていく。
彼は諦めて、そして悟った。
恋愛一つもまともに出来ない彼女。
愛に踊る彼女の一番は彼女。
そんなものは本当の恋愛じゃない。
自分が一番可愛いだけ。
だから彼のことも気にも留めずにいられる。
成長過程の彼は気付いていく。
諦めて、悟って、そして理解した。
彼処にいるのは誰?
彼には関係ない他人。
血が繋がっているというだけの存在。
彼女への冷ややかな感情が彼を支配していく。
彼女に笑顔を向けてほしくて頑張った彼は、もう何処にもいない。
要らない彼女を切り捨てるのはまだ先の話。
今の彼はまだ未熟な存在。
誰の力も借りずに一人で生きていく為に、彼は前を見据える。
彼が一人で生きていく時、彼の前には彼女はいない。
自分の足で、自分の力で、彼は彼の存在を示していく。
彼女が置き去りにした空間が彼を固めた。
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