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小説という名の日記C(栞機能無し)
7

こいつは貴宏を苦しめる。
こいつは貴宏を傷付ける。
こいつから守らなければ。
こいつがすべての元凶。
包丁を振り翳す紘弥と包丁を突き出す父親は同時だった。

紘弥の上腹部に激痛が走る。
深々と突き刺さった包丁。
痛い。痛い。何だこの痛みは。
分かってる。刺されたんだと分かってる。
だけど激痛で何も考えられない。

目の前には父親。
父親の胸には紘弥が振り翳した包丁が深く刺さっていて。
絶叫と共に父親の身体から力が抜けていく。
床に伏し激痛に呻く身体。
これでもう父親は貴宏に危害を加えない。

ああそうだ、この包丁を抜かなければ。
証拠を隠滅しなければ。
貴宏が起きる前に何とかしなければ。
貴宏を怖がらせるものは全て隠さなければ。
的外れな事が浮かんでくるが、紘弥にはそれが的外れだと分からなかった。
突き動かされるようにやっとの思いで父親の身体から包丁を引き抜く。
飛んできた血飛沫は紘弥の服を汚した。



掛かっていたタオルを掴み、服を拭こうとしたその時。
視界の隅で何かが動いた。

ああ、起こしてしまったか。
ぼんやりとした頭の中でそんな事を考える。

何時の間に目覚めたのだろう。
何時の間に此処まで来たのだろう。
あ、あ・・・。
貴宏が声にならない言葉を発しながら、尻餅をついた格好で目を見開いていた。

その瞳に映るものは恐怖。
その身体はがたがたと震えていて。

ああ、怖がらせている。
安心させなければ。
もう大丈夫だと教えてあげなければ。

だけど気力を振り絞って紘弥が近付くたびに、貴宏が首を振る。
未だ声は言葉にならないままで、震えながら左右に首を振る。



全身が悲鳴をあげていて、紘弥も思うように言葉が出てこない。
安心してと告げる代わりに頬を撫でようと手を伸ばせば、一瞬貴宏の身体が固まった。

嫌だ・・・。
小さく漏れた一言。
震える声が痛々しい。

何が嫌?もう大丈夫。
あなたを傷付ける者はいない。
思いを込めてそっと頬に触れる。

けれども指先が触れた瞬間、その手は振り払われて。
触るなと、確かに貴宏がそう言った。



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あきゅろす。
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