[携帯モード] [URL送信]

小説という名の日記C(栞機能無し)
6

罵られた父親の顔が怒りに満ちていく。
誰に向かって口を利いてるんだ。
胸倉を掴まれて、負けじと紘弥も胸倉を掴み返した。

てめえに言ってんだよ。
貴宏さんに何をした。
暴力しか使えないなんて、どんだけ小さい男なんだよ。
てめえは人間の屑だ。

屑と呼ばれた男が紘弥を鼻で笑った後、憤怒に満ちた声で言い返してくる。
はっ、あいつは俺のものだから何しようが俺の自由だ。
んな事よりそれが親に対する態度か。



そこからは罵り合いだった。
貴宏を気遣い潜めていた声も、父親に煽られ次第に大きくなっていく。
胸倉を掴む腕にも力が入る。

互いに激した感情。
我を忘れるほど頂点に達した怒り。
我慢出来ずに手を出したのはどっちが先か。
それはたぶん同時で、口論は掴み合いへと発展した。
殴っては殴られ、狭いスペースで揉み合う。

倒れ込んだ父親の上に伸し掛かった。
痛いか。痛いだろ。
みんな痛かったんだ。
てめえも痛みを味わえ。
伸し掛かった上から父親を殴りつける。

はあはあと吐き出す互いの息が荒い。
渾身の力で殴り、渾身の力で抵抗する。
上に伸し掛かった分、優勢なのは紘弥だった。



劣勢に立った父親。
父親の後ろにはキッチンの流し台。
流し台の下にあるのは調理器具を仕舞ってある棚。
父親の手がその扉へと動く。
確か扉を開ければそこには・・・。

扉を開けようとする父親を止めようとしたが、そう気付いた時には間に合わなかった。
並んでいる数本の包丁。
その中の一本を無造作に引き抜いて、父親が紘弥へと突き付ける。

怒りに満ちた父親の顔。
その双眸からも怒りが溢れていて。
脅しか本気か、紘弥には本気にしか見えない。
殺るか殺られるか、目前で握り締められた包丁が、二つの選択肢を突き付ける。

こいつがその気なら。
殺られる訳にはいかない。
こいつさえ居なくなれば。
こいつさえ居なければ。
開きっ放しの扉から、紘弥も包丁を引き抜いて握り締めた。



[*前へ][次へ#]

6/9ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!