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小説という名の日記C(栞機能無し)
5

だけどその前に、もうこれ以上貴宏が傷つくのを見ていたくない。
意識を失うほどの暴力から、貴宏を何としてでも守りたい。
紘弥にとっては傲慢なだけの父親より、貴宏の方が何倍も何万倍も大事で、傷付き苦しむ貴宏を見るのが辛い。
紘弥の方が限界だった。

激しい怒り。
父親さえ居なければ。
父親が貴宏に暴力を振るいさえしなければ。
怒りがぐつぐつと煮え滾っていく。

もうこれ以上父親の愚行を見過ごせやしない。
紘弥の前で行われない暴力。
だけどこうして貴宏は倒れている。
紘弥が居ない時を見計らい、容赦ない暴力が振るわれている。

おい、いい加減にしろよ。
リビングに現れた父親を、紘弥は鋭い眼差しで睨み付けた。



対峙する不遜な父親の眼差し。
紘弥の傍にはソファーで横たわる貴宏。
まだ目は閉じられた儘で、目覚める気配がない。
日々の緊張で疲れているだろうから、当分は起きないだろう。

騒々しさで無理矢理貴宏を起こしたくはない。
廊下に出るか。いや、それだと貴宏の姿が見えなくなる。
万が一、異変があっても気付けない。
だが此処では貴宏を起こしてしまう可能性がある。

紘弥は貴宏を起こさないように声を潜めた。
声を潜めはしたが、低くて重い声が紘弥の怒りを表している。
ちょっと話があんだけど。
久し振りに話し掛ける態度は、とても父親に対するものではなかった。



父親の返事も聞かずに、キッチンの隅へと移動する。
流し台とカウンターに挟まれた場所。
此処なら貴宏の様子も見れるし、声を潜めればそう煩くもならない。

近付いてくる父親の顔は如何にも不機嫌で、だがどんなに険しい表情をしていても威厳なんて感じやしない。
何時の間にか追い越していた身長。
今なら力だって父親に負けない。
こんな奴に何時までも好き勝手にさせやしない。

糞ジジイ、お前最低だな。
怒りを込めてその一言を吐き出した。



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