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小説という名の日記C(栞機能無し)
3

時と共に紘弥も成長し、身長が伸びるにつれ、体つきも逞しくなっていく。
貴宏兄ちゃんから貴宏さんへと、その呼び方も変わっていく。
父親の呼び方も、お父さんから親父へ。

それと反比例するかのように、父親は紘弥には手を出さなくなった。
互角の力、若しくはそれ以上だと、危惧を覚えたのかもしれない。
幼い頃紘弥を庇ってくれた貴宏を、紘弥が庇うようになると、紘弥の前では貴宏への暴力を止めた。



だが止んだのは紘弥の前だけで。
殴らなくなった代わりに、機嫌が悪ければ幾ら貴宏が父親に話し掛けても徹底的に無視をする。
無視をしない時には言葉の暴力。
そして紘弥が居ない時に肉体的な暴力を振るう。
その痕は確実に残っていて、紘弥がそれに気付かない筈がなかった。

身体に残る無数の暴力の痕。
それを見つけ怒りの儘に父親の元へと向かおうとする紘弥を、貴宏は何時も引き止めた。

大丈夫だから。
これくらい何ともないから。
必死に懇願され、何度怒りを押し殺したことか。

出て行かないよな?
此処に居てくれるよな?
幼い頃は出て行くなと引き止めていたのに、今では恐る恐る問うことしか出来なくなった。



紘弥が高校生となった今でも、父親の貴宏への暴力は続いている。
学生を疾うに卒業し、社会人となっている貴宏。
自分で稼げるようになった分、出て行こうと思えば直ぐにでも出て行ける。
それがまた紘弥の不安を呼び覚ます。

けれども貴宏がこの家で暮らし続けるということは、これからも父親の暴力の犠牲になるということ。
もう子供の頃のように、出て行くなと一方的な我が儘を言えない。

記憶の断片にしか残らない実の母親。
顔すらも覚えてない。
だけど捨てられた記憶だけは今も刻み込まれていて。
貴宏も何時か此処を出て行くんじゃないか、此処を捨てるんじゃないか、そういった不安が紘弥の胸を過ぎっていく。



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あきゅろす。
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