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小説という名の日記C(栞機能無し)
2

子供だった紘弥には難しいことは分からない。
父親を持ち出されても紘弥には関係ない。

紘弥にとって父親は恐怖の対象。
暴力という恐怖で紘弥を怯えさせる存在。
幾ら父親を擁護されても父親に甘えたいとは思わない。
第一、そんなことを聞きたいのではない。

それよりも重要なのは、貴宏が出て行かないこと。
実の母親のように紘弥を捨てないこと。

出て行かないでと縋る子供の眼差しを、貴宏は温かく受け止めてくれた。
最初の頃は本当に穏やかな微笑みだった。



だけどそれも父親の暴力が始まるまでの話。
父親が貴宏に暴力を振るうようになってから、その微笑みは翳りを帯びた。

最初は貴宏が紘弥を庇ったことから始まった。
父親の機嫌が悪いと気付かずにテレビをつけた、ただそれだけのこと。
煩いと殴られた紘弥を庇った貴宏を、激昂した父親が殴った。

それが日常的になったのはあっという間だった。
気に入らないことがあれば、父親は容赦なく貴宏に手をあげた。
女と違う男の身体。
女より頑丈に出来てる分、堪えられないと出て行った母親よりも、貴宏への暴力は加減がなかった。



貴宏は自分が殴られても紘弥を庇ってくれた。
幼い紘弥は庇われた腕の下で、震えながら「止めて」と父親に懇願することしか出来なかった。
存分に暴力を振るった父親が去った後、出て行かないでねと貴宏に縋ることしか出来なかった。
幼い紘弥は圧倒的な暴力に、なすすべもなく無力だった。

もう貴宏は穏やかに笑いかけてくれない。
諦めたようなぎこちない微笑みで、最終的に大丈夫と告げる。
痛かっただろ?
怖かっただろ?
俺はあの人を愛してるから、これくらいどうってことないんだ。
きっと機嫌が悪かっただけだよ。
いろんな言葉はあったけれど、最終的に告げるのは決まって「大丈夫」だった。



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