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小説という名の日記C(栞機能無し)
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貴宏の頬がまた腫れている。
何でもないとぎこちない微笑みで誤魔化すけれど、また殴られたのは一目瞭然で。
そっと腫れた頬に手をやれば、ピクリとその身体が揺れた。

紘弥の父親の恋人である貴宏。
紘弥の母親代わりとも言える存在。
その貴宏を父親は殴る。

何度も目にする暴力、そして暴力の痕。
それは日常的な光景。
だけどその光景に、何時まで経っても紘弥が慣れることはない。



父親の暴力に堪えかねて家庭を捨てた実の母親。

あなたは確かに私の血を受け継いでいるわ。
でもあの人の血をも受け継いでると思うと、一緒に連れて行く気にはなれないの。

それは自分を傷付けた夫への怯えと憎しみ。
母親は幼い紘弥も捨てて、家を出て行った。

その一年後に紘弥は初めて貴宏と会う。
貴宏は学生服を着ていたけれど、当時の紘弥から見れば大人に見えた。
何も彼もが母親と似ても似つかない。
けれども、家の中の事をしてくれる人だと父親に言われ、よろしくねと貴宏に微笑まれ、幼いながらも母親みたいなものなのだと漠然と感じていた。
そしてその日から、貴宏は紘弥達と一緒に暮らし始めた。



実の母親よりも紘弥を大切にしてくれる貴宏。
時には叱られもしたけれど、それは紘弥に非があった時で、それでも愛情をもって叱ってくれた。
そんな優しい貴宏に紘弥が懐いたのも、当然と言えば当然で。

自分を捨てて出て行った母親の記憶。
貴宏兄ちゃんは俺を捨てない?
小学二年の子供の問い掛けに、貴宏はにこりと笑ってくれた。
勿論、ずっと一緒に居るよ。

その言葉に安心したけれど、実の母親に捨てられた記憶が根深く刻み込まれていて、それからも不安になるたびに紘弥は貴宏に問い掛けた。



ずっと此処に居てくれる?

うん、ずっと居るよ。

絶対?

うん、絶対。
あの人を愛しているし、紘弥も大事だしね。

本当にずっと?嘘じゃない?

あの人は俺の学費を出してくれてる。
住むとこだってくれた。
感謝してるし愛してるんだ。
この気持ちはずっと変わらないよ。
勿論、紘弥も大好きだからずっと一緒だよ。



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