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小説という名の日記C(栞機能無し)
9

そうだったのか。
泣き疲れて思考能力の低下した頭がぼんやりと思う。
他に席が空いているのに、態々晶の隣に座った理由。

あれにはちゃんと理由があったんだ。
晶は司を知らなかったけれど、司は晶を知っていた。
明確な意図をもって、司は晶に接してきていた。
其処にどんな意図があるのかは分からないけれど、初めての出会いは司にとって意識されたものだった。



俺を揶揄おうと思った?

違う。

馬鹿な奴だって嘲笑おうと思った?

違う。

じゃあ何?何で俺に近付いてきた?

話してみたかったから。

で?その結果は?

もっと傍に居たいと思った。
笑わせてやりたいと思った。
兄貴じゃなくて俺を見てほしいと思った。



並び立てられていく言葉。
堪らなくなって晶はそれを遮った。

泣きはらした瞳で司を見れば、真摯な顔で晶を見つめていて。
本気の台詞だとその表情が訴えていた。

騙されたという思いが消え去っていく。
真剣な眼差しは晶だけをその瞳に映していて。

何が希望?
その眼差しに問い掛ければ。
これからも一緒に居させてほしいと、目の前の唇が動いた。



何時の間にか好きになっていた。
司の声が胸に入り込んでくる。
兄貴の振りをしてメールする度に嫉妬してた。
それは苦しみを帯びた音色で。
これからずっと晶の傍に居るのは俺だと思った。
その声を聞いていて、何だか晶まで苦しくなった。

騙されていたという思いは、完全になくなっていた。
今は伝わってくる司の想いが、ただ痛くて。
何をどう言っていいのか分からなくなる。



今も晶は英を忘れてない。
英を好きなままで。
現実から目を背けるくらい、英を失ったことが耐えられなかった。

もうこの世の何処にもいない。
分かっているのに、英を求める心はなくならない。

だけど司が居てくれたから、毎日が楽しくなったのも事実で。
今更司を失うのも怖くて。

司を失う。そう考えた途端に、突然英を失ったあの時の恐怖が蘇ってくる。
あの絶望をまた味わうのかと思うと、呼吸をするのも苦しくなってくる。



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