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小説という名の日記@(栞機能無し)
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もうこれ以上此処に居るのは限界だった

下品な空気も、卑猥な話も、こんな所で知った事実も、もう沢山だった



坂上が席を立ち出て行こうとした愁の腕を掴み、掌に紙を握り込ませる

アルコールの臭いをぷんぷんと撒き散らしたその手が体に触れた途端吐き気までした

激情の儘に腕を振り払い、濁りきったその場所から走って飛び出した



祐輔に会いたくて、会いたくて、只管走って家に辿り着いた

玄関を開ければ真っ暗な部屋

人気もなく冷え切った室内

声を聞きたくてポケットから携帯を取り出すと一件のメール受信があった



―――泊まってくるから晩飯は要らない



会いたい人は今日は帰って来ない



自分が何かを握り締めていた事に気付いた

携帯を握り締めた反対の手には、男に渡された紙が握り締められた儘だった

裏に携帯番号の書かれた一枚の名刺

愁はそれをぐしゃぐしゃに握り潰した



12月の寒気が暖房を点けない部屋をしんしんと浸していた











葵から何時ものようにメールが来た

祐輔も呼んで家族でクリスマスパーティーをするらしい

クリスマスにアルバイトを入れてよかったと思った



葵の話題は冬休みにまで及んだ

正月に葵の姉が帰ってくること

祐輔贔屓の母親が大学生の姉との仲を取り持とうと画策していることへの愚痴が書いてあった



葵の話を聞くたびに、愁の所為で一旦壊れた祐輔が少しずつ立ち直っていることを感じた

祐輔が笑えるようになったのは葵のお陰だと感じた

熱を出した頃を境に、祐輔は愁を抱かなくなった

愁を抱かなくなったのは擦れ違う日々の所為ではなかったらしい

葵とその家族が祐輔を支えたのだと想像がついた

二人はまだ付き合っていないらしい

告白する勇気がないのだと葵はシュンとしていた










クリスマスの日、愁はアルバイト先で店長からプレゼントを貰った

店に訪れた客へのささやかなその粗品は、小さな可愛らしいブーケの飾りだった

愁は持ち帰って祐輔の部屋のドアノブに飾った

「部屋に飾っていいか?」

次の日に顔を合わせた時に聞かれ頷いた

祐輔の部屋に入ることのなくなった愁には、それが邪魔だったのか、本当に部屋に飾られたのか知ることはなかった












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