小説という名の日記@(栞機能無し)
30
深夜のファミレスのバイトが終わり、帰ろうと自転車のチェーン式の鍵を触った途端、親指に鋭い痛みが走った。
そう言えばと、鍵が壊れかけていた事を思い出す。チェーン式の鎖の一ヶ所が壊れ鋭い棒みたいになっていた。遅刻しそうだった為、バイトが終わってから直そうと思っていたのを失念していた。
指先を見てみる。かなりざっくりと切れ、出血が止まらない。
仕方なく自転車で帰るのを諦め、夜間開いている大病院へ行った。
三針縫われ抜糸は一週間後。
手慣れた医師はいとも簡単に処置を済ませた。
その間もバイトを休まず、一週間はあっという間に過ぎ去った。
抜糸の為に訪れた病院。こうして昼間来てみると、患者が多く流石大病院だけはあった。
散々待たされ抜糸も終わり、漸く落ち着く。のんびりと出入り口へ向かった。
向こうから歩いて同じく出入り口に歩いていく人に見覚えがあった。
すみません、と声を掛けると、中学の卒業式に見かけたことのあるその女性は、足を止め振り向く。
「浩太のお母さんですよね」
怪訝な女性の顔は、高岡と言いますと言葉を重ねた事により笑顔になった。
「もしかして浩太が中学で何時もお世話になってた高岡君かしら」
「はい。あの・・・浩太、元気にしてますか?」
胸に仕舞い込んだ想いは捨てる事は出来なかった。忘れ去られる事なく、思い出と昇華される事もなく、変わらず高岡の胸にあった。
浩太が今どうしているか知りたかった。あの透き通る笑顔はまだ失われた儘なのか。あれ以上傷付けられていないか。
それだけが心配だった。逢いたくても逢わないと決めた。それでも浩太の事が何時も気懸かりだった。
彼女の顔が一瞬くしゃりと歪む。
「浩太ね、今此処に入院してるの。高岡君、時間あるなら会ってやってくれない?」
予想もしていなかった。
高校時代、病室で最後に会った浩太を思い出す。
あの時は軽くて済んだ。今度もきっとそうだ。何らかの事故でまた骨折でもしたんだろう。
そう信じたかった。彼女の歪んだ顔が呼び起こす悪い予感を振り払おうとする。
「退院の予定は立ってないの。友達が来てくれたら喜ぶと思うから」
恐る恐る理由を尋ねた高岡に、「ちょっとね・・・」と口籠り、そう続けた。
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