小説という名の日記@(栞機能無し)
4
二人の会話が終わったらしい。
大輔に手を振って、朔は校門から出て行った。
自分の想いを知っている恋人。
大輔と肉体関係があることを知らない恋人。
本当なら朔に肉体関係があることを言わなければいけないのかもしれない。
けれどそれで朔と大輔の間に亀裂が生じれば、きっともう大輔は見向きもしなくなる。
告げられない狡さが罪悪感を増していく。
けれど、帰って行く恋人の後ろ姿に感じた罪悪感は、眼下に残る人を見て呆気なく消えた。
都合がいいと自分でも思う。
それでも、大輔の姿を見るだけで嬉しくなった。
切なくなって大輔の事以外考えられなくなった。
踵を返し校舎に入る前、大輔が上を向こうとした。
別に此の教室の窓を見ようとした訳でもないだろう。
それでも見つからないように咄嗟に窓から離れた。
動きたくなくて窓の下の壁に凭れて座った。
気持ちを伝えたらどうなるだろう。
きっともう抱いてもくれなくなる。
朔と付き合っている限り視界に入る事はできるだろう。
昔ならそれで良かった。
体の関係のなかった頃なら視界に入れるだけで幸せだった。
けれど体を繋げてからは更に欲深くなった。
視界に入るだけじゃなくて、触れたい。幾ら冷たくされても大輔の体温を感じたい。
あの温もりを知った今、手放す事が怖かった。
酷い扱いをされても、温もりをなくす事に比べたら十分幸せだった。
自分の感情の醜さに自嘲した。
此処に居ても気持ちが沈んでいくばかりだった。
帰ろうと立ち上がりかけたその時、扉が開いた。
驚いて声が出なかった。
大輔がゆっくり近付いてくる。
見下すような視線は相変わらずで、涼が此処に居る事を知っているかのようだった。
何で?
さっき姿を見られた?
声にならない声が頭の中で渦を巻く。
「こんなとこで何してんの。」
「・・・どうでもいいだろ。」
問い詰める口調に真っ白になった頭は、上手い言い訳も思い付かなかった。
知られてはいけない。
それだけが混沌とした今の脳内の状態で弾き出された答えだった。
「もしかして淫乱な体慰めて欲しかったとか?」
口調はさも楽しそうに嘲りを含んでいるのに、冷たい目が全く笑っていなかった。
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